研究課題/領域番号 |
17H03539
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田中 真樹 北海道大学, 医学研究院, 教授 (90301887)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 皮質線条体経路 / ゲイン調節 / 局所場電位 / 刺激誘発応答 / ドパミン / 時間生成 / 霊長類 |
研究実績の概要 |
げっ歯類を用いた研究により、大脳基底核ループでは計時の際に測定する時間長に応じて神経活動パターンの時間経過の伸縮が生じることが示されている。この背景には、大脳基底核ループ内の動的なゲイン変化があると申請者らは考えた。実際、申請者らは最近、時間生成課題を訓練したサルの線条体でルール依存的な神経活動の変化があることを発見した(投稿準備中)。これに注目し、その生成メカニズムを調べることで、大脳基底核ループの中で重要な役割を果たすと考えられる皮質線条体経路の動的調節機構の解明に挑戦する。具体的には、報告しようとする時間長によって変化する線条体の感覚応答とLFP成分を明らかにし、大脳皮質の電気または光刺激による線条体での応答を調べる。さらには、ドパミンおよびアセチルコリン関連薬の局所投与と単一ニューロン記録を組み合わせ、計時に関与すると考えられる線条体の漸増する活動の制御機構を探る。これまで繰り返し示されてきた状況依存的な線条体の神経活動の成因の一端を行動下の霊長類で3年をかけて明らかにする。 初年度である平成29年度は、現有の個体と新たに調達して訓練を行った個体を用いて、まず、本研究構想の元となった線条体のLFP記録を継続し、複数頭からのデータを収集した。これらのデータを定量解析し、シンポジウムなどで発表した。論文も作成して現在、投稿前の最終調整中であり、平成30年度前半の採択を目指している。また、大脳皮質の刺激による早期反応を調べるために、時間解像度で多チャンネルのサンプリングができるシステムを開発し、現在、少しずつデータの収集を開始している。平成29年度は、線条体に長期間留置できるアレイ電極を開発する予定であったがまだ試行中である。電極を留置できるチャンバーは開発することができたので、平成30年度はこれを用いた慢性的な多点記録ができるシステムの開発を引き続き進める必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に予定していた線条体のLFP解析を複数の個体で行い、研究成果を学会等で発表するとともに、論文を作成することができた。平成30年度中には採択されることが見込まれ、順調であるといえる。また、補足眼野の刺激による線条体の誘発応答も少しずつ記録できるようになってきた。当初は眼球運動記録用のアイコイルによる高周波ノイズが問題となったが、現在は赤外線式の眼球運動測定装置を併用するなどして解決を図っている。今後、刺激部位、記録部位、刺激パラメータなどの調整をすることで、新たな発見が見込まれる。その一方、多点電極の開発が遅れている。電極留置用のチャンバー蓋を開発したので、これを用いて調整を行う必要がある。また、電気刺激のノイズが大きいため、光刺激を導入してより短潜時の応答を調べることも今後考慮する必要があるかもしれないが、当面は電気刺激で変化が認められそうである。時間生成課題以外でも状況依存性を調査するため、サルにアンチサッカード課題も訓練している。刺激と記録が軌道に乗れば、この課題でも変化を調べることができるものと期待している。最終年度には薬理実験を行う予定であるが、現在はまだ準備ができておらず、平成30年度はまず情報収集を行うこととする。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、時間生成課題をサルに訓練し、①課題ルールによる線条体のニューロン活動とLFPの変化を解析した後、②大脳の電気および光刺激に対する線条体の後シナプス性応答と、③線条体ニューロンの課題関連活動へのドパミン関連薬の影響を調べることを予定している。計画通り、平成29年度のうちに①をほぼ終了することができたので、平成30年度は②を行うとともに、③の準備を進める。具体的には、皮質内微小電気刺激で眼球運動が誘発されることを指標にして補足眼野を同定し、線条体に慢性的に刺入した電極から大脳の電気刺激による誘発応答を記録し、皮質線条体路の機能結合のダイナミクスと状況依存性を調べる。時間生成課題で大きな変化がみられなければ、アンチサッカード課題なども考慮する。また、電気刺激でうまくいかない場合は光刺激の導入も検討する。上述のように、多点電極の開発が遅れており、試行錯誤しながら進めるが、それと同時に少しずつデータ収集を行って、課題依存的な応答が得られる刺激部位やパラメータを探る。③に関しては、インジェクトロードによるLFP記録を予定している。本研究を中心となって進めてきた研究協力者の大学院生が学位を取得して助教に採用されたので、引き続き研究を継続することができる。
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