ニューロンが多数のシナプス入力から入力を統合し、どのようにして活動を決めるのか、そのメカニズムを明らかにすることは、神経情報処理を理解するうえで重要なことの一つであるが、まだ明らかになっていない。本研究では、視覚情報をモデルにこの答えを導くことを目指している。昨年度までに、細胞体活動電位の発生を光遺伝学的に抑制し、活動電位の逆行性伝播が生じない条件下に、スパイン活動を記録する実験系を確立した。これにより、個別のスパイン活動を、樹状突起からのシグナルの混入なく、正確に測定することが出来るようになった。今年度は、この実験系を用い、個別の大脳視覚野興奮性ニューロンから、スパイン活動の大規模イメージングを行った。まず大脳視覚野興奮性ニューロンに、カルシウムセンサータンパクと抑制性光遺伝学タンパクを低密度に発現させた。次に視覚刺激を提示し、細胞体の活動を記録したのち、細胞体活動を光抑制しスパインの活動を記録した。記録は2光子カルシウムイメージングにより行った。大脳視覚野1個の興奮性ニューロンは約2000個のスパインを持つが、大規模イメージングを行った結果、1個のニューロン当たり約1000個のスパインの活動を記録することに成功した。また個別のスパイン反応をカルシウムシグナル変化から計算し、ニューロンの樹状突起上に各スパインの位置と反応を特定したシナプス入力の機能マップを作製することにも成功した。このマップをもとに、シナプス入力の機能分布を解析した結果、2つのことが明らかとなった。1つ目は、細胞体の反応と同じ反応を示すスパインが、最も多数存在した。2つ目は、同じ反応をするこれらのスパインが、特定の枝にクラスターを形成していることが分かった。以上の結果から、細胞体の活動はスパイン入力の数とクラスターにより決まり、多数の樹状突起の枝の中でも特定の枝が活動決定に関係している可能性が示唆された。
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