研究課題
ヒトをはじめとして、様々な動物の脳はカラム構造と呼ばれる機能単位から成るため、個々のカラムが形成される分子機構を理解することは神経科学において重要な研究課題である。しかし発生過程においてどのような細胞集団からどのようにカラム構造が作り出されるのか、 そのメカニズムついてはほとんど分かっていない。ほ乳類において各カラムは数万もの神経細胞から成り、その全貌を明らかにすることは非常に困難である。一方、ショウジョウバエ脳視覚中枢において見られるカラム構造はたかだか100程度の神経細胞から成る上、ハエの分子遺伝学的手法を用いて迅速かつ緻密な解析を進めることができる。我々はこれまでに、ハエのカラム構造を簡単に可視化できるマーカーを多数同定しており、さらに、カラム形成において特に中心的な役割を果たす3種類の神経細胞を同定している。これらの神経細胞を中心として、神経細胞種特異的に遺伝子の働きを操作するトランスジェニック系統を作製し、カラム形成において重要な役割を果たす遺伝子の働きを解析する。また、1つの神経幹細胞から生み出された姉妹神経細胞群がカラム形成において重要な役割を果たすことを見出している。このような細胞系譜がカラム形成において果たす役割は哺乳類においても指摘されており、進化的に保存されたメカニズムの発見が期待される。発生過程において生じたカラム構造の異常は上記のマーカーを用いた組織染色によって同定するだけでなく、視覚刺激に基づいた行動実験装置を用いて解析する。このように、ハエ視覚中枢を用いて、進化的に保存されたカラム形成の分子機構およびカラムが視覚情報処理において果たす役割を明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
細胞接着分子N-cadherinによる細胞の違いによってカラムの基本構造が形成される分子機構については、すでに成果を取りまとめ、国際的な学術誌に論文を投稿している。採択に向けて改訂版の論文を作成中であり、次年度には採択される見込みである。他にも、Dscam1やWnt/PCPシグナルによるカラム形成機構についての解析がすすんでおり、次年度には論文を投稿する目途が立っているため。
1. N-cadherinによる細胞接着の違いによってカラム内の神経細胞の配置を決めるメカニズムについての論文を国際的な学術誌に出版する。また引き続き、N-cadherinによるカラム形成機構と層構造形成の関係性についても解明する。2. 神経幹細胞およびその娘細胞において発現したDscam1が同じ細胞系譜の神経細胞間の投射パターンの違いにどのように貢献 するか、組織染色・モザイク解析によって明らかにする。研究成果を論文として取りまとめ、投稿する。3. ハエ視覚中枢の腹側および背側特異的に発現するWnt4およびWnt10、これらの受容体として働くFz1およびFz2、下流で働くPCPシグナル因子の変異体におけるカラム形成異常について、様々なマーカーおよびカラムの一部に投射する神経細胞の形態を指 標にして詳細に調べる。研究成果を論文として取りまとめ、投稿する。4. 様々な変異体における異常なカラム画像をディープラーニングによって学習させ、カラムの形態異常を定量するシステムを 構築する。5. カラムの形態および配置に異常を示す変異体に様々な映像を見せたときのハエの行動を比較解析し、カラムがどのような視 覚情報処理を行っているか明らかにする。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
Neuroscience Research
巻: 138 ページ: 49-58
DOI:10.1016/j.neures.2018.09.009
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巻: 8 ページ: 12484
DOI:10.1038/s41598-018-30929-1
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