研究実績の概要 |
脳の機能単位であるカラム構造が規則正しく集積することで高度な脳機能が実現する。しかし、発生過程におけるカラム形成機構はほとんど分かっていない。本研究ではショウジョウバエ視覚中枢のカラム構造をモデル系として、神経細胞間の細胞接着力の差によってカラムの基本構造が決定する仕組みを解明した。 細胞接着因子Nカドヘリン(Ncad)は進化的に保存された細胞接着分子であるが、これが発生過程のハエの視覚中枢においてカラム構造のマーカーとして有用であることを見出した。発生初期においては3つのコア神経細胞R7, R8, Mi1が平面上にドーナツ状のカラム構造を形成することを明らかにした。この時、R7の軸索終末はカラムの中心部に、R8の軸索終末はその周囲に投射し、Mi1はR8のさらに外側の領域を占める。 カドヘリンの発現量が異なる細胞集団を培養すると、発現量が高く接着力の強い細胞ほど細胞集団の中心に位置し、接着力の弱い細胞ほど外側に位置する事が知られている。実際、R7, R8, Mi1それぞれにおいて特異的にNcadをGFPラベルした実験により、R7>R8>Mi1の順にNcadの発現量が異なることが分かった。 R7, R8, Mi1神経細胞の分布密度に着目した数理モデルを用いてシミュレーションを行うと、これらの相対的な細胞接着力がR7>R8>Mi1の順になっていれば自発的にカラム構造が形成されることが示された。この結果に基づき、R7やR8において特異的にNcadをノックダウンすると、これらの軸索終末がカラムの外側に投射し、逆にR8やMi1において特異的にNcadを強制発現すると、これらの神経突起がカラムの内側に投射した。これらのことから、R7, R8, Mi1におけるNcadによる接着力の差によってカラムの基本構造が決定していることが示された。
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