研究実績の概要 |
神経幹細胞は多数の神経細胞を生み出し、細胞系譜の共通する神経細胞集団が同一のカラムを構成するというRadial Unit仮説が提唱されているが、神経幹細胞とカラム構造の対応関係は未解明である。本研究では細胞系譜の共通した姉妹神経細胞の軸索が互いに反発し、異なるカラムに投射することを見出し、この現象を細胞系譜依存的反発と名付けた。この現象を制御する分子としてダウン症の原因遺伝子として知られるDscam1に着目し、その機能を解析した。Dscam1 mRNAは分化した神経幹細胞において一過的に発現するが、Dscam1蛋白質は娘神経細胞集団に分配され、軸索に集積する。Dscam1は20,000ものスプライスバリアントを持つが、細胞系譜の共通した神経細胞同士が同じスプライスバリアントを共有し、互いに結合・反発することで、細胞系譜依存的反発が引き起こされることを解明した。 1つのカラムは多数の神経細胞から成るため、カラムの内部構造は複雑であり、なんらかの極性を持つと考えられる。本研究では平面内細胞極性を制御するWntPCPシグナルがカラムの方向性およびその配置を制御することを明らかにした。WntリガンドのDWnt4はハエの脳の腹側で、DWnt10は背側で特異的に発現し、背腹方向の濃度勾配を形成する。受容体であるFz1は均一に発現し、Fz2は背側で強く、腹側で弱い勾配を持った発現を示すが、いずれもカラムの正常な極性・配置にとって必須である。また、カラムを構成するコア神経細胞であるMi1およびR8の神経突起は平面内細胞極性を示し、特定の方向に配向している。これら神経突起の配向性がWntPCPシグナルによって制御されることを示した。 これらの研究成果を国際的に著名な学術誌Nature CommunicationsおよびCell Repotsにおいて発表した。
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