研究課題/領域番号 |
17H03546
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
王 丹 京都大学, 高等研究院, 特定拠点准教授 (50615482)
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研究分担者 |
飯田 慶 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (00387961)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | N6-adenosine methvlation / 機能分画 / シナブトソーム / 翻訳制御 / 精神疾患 / 発達障害 |
研究実績の概要 |
2018年は新規開発したシナプスにおけるm6A-seq方法を用いて、健康な成体マウス脳から神経シナプスに含まれるRNAを精製し、m6A修飾を受けているmRNAを次世代シーケンサーで解読した。その結果、シナプス由来RNAサンプルにおいて、2,921個の遺伝子群から4,469ヶ所のm6A修飾部位を同定することができた。これはシナプスに存在するRNA修飾の状況についての世界初の記述である(Nat Neurosci, 2018)。そこから、さらにシナプスでのmRNA量が脳全体での量に対して相対的に多い遺伝子を除き、シナプスにおいてのみ特異的にm6A修飾が増加している遺伝子1,266個を同定した。非常に興味深いことに、これらの遺伝子には、精神疾患・発達障害に関連するものが多く含まれている。それらのうち最もよくm6A修飾されている遺伝子群は統合失調症や自閉症、うつ病などの精神疾患に関わるものが含まれたことが明らかになった。細胞レベルの実験では、細胞質におけるm6Aを読み取るタンパク質YTHDF1に注目し、分散培養した海馬由来の神経細胞におけるタイムラップスノックダウン実験を行った結果、m6Aシグナルは神経細胞の成長円錐、軸索、樹状突起、シナプスの形態形成に必要であることを明らかにした。シナプス形態の変化は発達障害をもつヒトのスパイン形態と類似し、精神疾患・発達障害との関連性を裏付けるものである。マウスでの実験と並行して、ヒト神経芽細胞腫由来SH-SY5Y細胞を用いてKClによる急性脱分極化に対するサンプルについてはm6A-seqを行い、今後遺伝子発現レベルの変化およびメチルレベルの変化ダイナミクスを解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画で解明を目指すのは、神経細胞における特徴的な高い時空間分解能をもつ環境依存的遺伝子情報発現プログラムを実現する分子メカニズムである。そのため、神経細胞の成長円錐およびシナプスに局在するmRNAの化学修飾による「地方分権型」転写後制御モデルについて検証を試み、途中経過の結果として、RNAエピジェネティク制御の一つにあたるN6-メチルーアデノシンについて、シナプス由来RNAサンプルにおいて、2,921個の遺伝子群から4,469ヶ所のm6A修飾部位を同定することができた。これはシナプスに存在するRNA修飾の状況についての世界初の記述である(Nat Neurosci, 2018)。概ね予定通りに順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、成長円錐やスパインにおけるRNAエピジェネティク制御の分子メカニズムを明らかにするとともに、マウスでの実験と並行して、ヒト神経芽細胞腫由来SH-SY5Y細胞を用いてKClによる急性脱分極化に対するサンプルについてはm6A-seqを行い、今後遺伝子発現レベルの変化およびメチルレベルの変化ダイナミクスを解析することを計画している。
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