生後発達期神経回路再編成における神経活動の機能的意義の解明

2017 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 17H03551
• 研究機関: 広島大学
• 研究代表者: 橋本 浩一 広島大学, 医歯薬保健学研究科(医), 教授 (00303272)
• 研究期間 (年度): 2017-04-01 – 2021-03-31
• キーワード: 小脳 / 登上線維 / 下オリーブ核

研究実績の概要

成熟動物の小脳プルキンエ細胞は1本の登上線維により単一支配されているが、生後直後には複数の登上線維により多重支配を受けている。マウスでは生後3週の間に過剰な登上線維が刈り込まれ、単一支配に移行することが知られている。この登上線維の刈り込みの機序と、登上線維起始核の下オリーブ核の機能的成熟との関連を明らかにすることが研究の主な目的となる。本年度は、登上線維の刈り込みに関わるメカニズムの解析として、ミクログリアの関与について解析を行った。ミクログリアを薬理学的、遺伝子工学的手法を用いて発達期小脳から脱落させた所、登上線維の刈り込みが障害されることが分かった。ミクログリアは貪食により過剰なシナプスを除去することが知られているが、発達期小脳では登上線維の貪食像はほとんど見られなかった。また、ミクログリア欠損マウスでは抑制性シナプスの形成が低下していた。抑制性シナプスの機能不全は登上線維の刈り込みを障害することが報告されているため、抑制性シナプス伝達を亢進するジアゼパムを投与して抑制性シナプス伝達を補償する実験を行ったところ、登上線維の刈り込みは改善することが分かった。また、下オリーブ核の活動に重要な要素となる閾値下膜電位振動（Subthreshold-membrane potential oscillation）に必須な要素としてKv11型電位依存性K+チャネルの関与を明らかにするため、下オリーブ核に発現の多いKv11.3（Kcnh7）の遺伝子組み換えマウスの作成を開始した。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

登上線維の刈り込みにおけるミクログリアの関与を調べる実験については論文投稿中である。下オリーブ核のSTOに関与する因子として、Kcnh7の組み換えマウスの作出がほぼ完了した。

今後の研究の推進方策

下オリーブ核のSTOが障害されていることが想定されるHCN1ノックアウトマウスにおいて登上線維の刈り込みの異常の有無を解析する。また、Kcnh7ノックアウトマウスの作出が終了した暁には、このマウスにおいてもシナプス刈り込みの有無を解析する。結果如何によっては、両者のダブルノックアウトマウスの作出も検討する。

研究成果

• [雑誌論文] Glutamate transporter GLAST controls synaptic wrapping by Bergmann glia and ensures proper wiring of Purkinje cells. (2017)
  • 著者名/発表者名: Miyazaki, T., Yamasaki, M., Hashimoto, K., Kohda, K., Yuzaki, M., Shimamoto, K., Tanaka, K., Kano, M., Watanabe, M.
  • 雑誌名: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 巻: 114 ページ: 7438-7443
  • DOI: 10.1073/pnas.1617330114.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Serotonin rebalances cortical tuning and behavior linked to autism symptoms in 15q11-13 CNV mice. (2017)
  • 著者名/発表者名: Nakai, N., Nagano, M., Saitow, F., Watanabe, Y., Kawamura, Y., Kawamoto, A., Tamada, K., Mizuma, H., Onoe, H., Watanabe, Y., Monai, H., Hirase, H., Nakatani, J., Inagaki, H., Kawada, T., Miyazaki, T., Watanabe, M., Sato, Y., Okabe, S., Kitamura, K., Kano, M., Hashimoto, K., Suzuki, H., Takumi, T.
  • 雑誌名: Science Advances 巻: 3 ページ: e1603001
  • DOI: 10.1126/sciadv.1603001.
  • 査読あり / オープンアクセス
• [学会発表] Anatomical pathway for perioral sensory signals to the inferior olive in the mouse. (2018)
  • 著者名/発表者名: Kubo, R., Hashimoto, K.
  • 学会等名: 第95回 日本生理学会大会
• [学会発表] マウスヒゲ領域から下オリーブ核に至る感覚経路の解析. (2017)
  • 著者名/発表者名: 久保怜香、橋本浩一
  • 学会等名: 生理学研究所研究会「シナプス・神経回路機能の時空間制御」
• [学会発表] Microglia Dependent Development of Neuronal Circuits in the Cerebellum. (2017)
  • 著者名/発表者名: Nakayama, H., Abe, M., Morimoto, M., Sakimura, K., Hashimoto, K.
  • 学会等名: 第40回 日本神経科学学会大会
• [学会発表] Activation of mTORC1 signaling in cerebellar Purkinje cells causes cell death and hypertrophy of Purkinje cells. (2017)
  • 著者名/発表者名: Sakai, Y., Kassai, H., Nakayama, H., Nakao, K., Maeda, T., Hashimoto, K., Kano, M., Aiba, A.
  • 学会等名: 第40回 日本神経科学学会大会
• [備考]
  • URL: http://home.hiroshima-u.ac.jp/physiol2/