研究課題
成熟動物の小脳プルキンエ細胞は1本の登上線維により単一支配されているが、生後直後には複数の登上線維により多重支配を受けている。マウスでは生後3週の間に過剰な登上線維が刈り込まれ、単一支配に移行することが知られている。この登上線維の刈り込みの機序と、登上線維起始核の下オリーブ核の機能的成熟との関連を明らかにすることが研究の主な目的となる。平成30年度までに、ミクログリアが抑制性シナプスの成熟を介して登上線維の刈り込みに関与することを報告した。ミクログリアによる抑制性シナプス発達制御の機序を明らかにするため、抑制性シナプスの周囲を覆うperineuronal netに着目し、生後発達変化をWFAによる染色を通じて形態学的解析に着手した。生後8日前後の小脳でWFAによる染色像がクラスター状の分布を示す結果が得られ始めている。また、下オリーブ核の周期的活動に重要な電気的膜特性と考えられているresonance特性に必須な要素の一つとして、Kv11.3(Kcnh7)の解析を行った。Kv11.3の特異的抗体を用いて組織学的解析を行ったところ、Kv11.3はニューロンの樹状突起上にクラスター状に分布しており、同じくresonance特性に必須なHCN1チャネルと同様な分布を示すことが分かった。また、昨年度来作出を進めていたKv11.3ノックアウトマウスを解析し、下オリーブ核のresonance特性が消失していることが明らかになった。このことは、Kv11.3ノックアウトマウスが、下オリーブ核において閾値化膜電位オシレーションが消失したモデルマウスとして使用可能であることを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
登上線維の刈り込みにおける機序の解明の成果として平成30年度に成果を公表し、さらに今年度は下オリーブ核のresonance特性におけるKv11チャネルの関与を解析した論文を現在投稿中である。よって進捗は順調であると考える。
令和元年度の解析から、perineuronal netが生後発達変化を示す可能性が示唆された。Perineuronal netは抑制性シナプスの周辺を取り囲んで入力するシナプスの形成に影響を与える可能性が考えられるため、本年度はperineuronal netがプルキンエ細胞への抑制性シナプス入力の発達に与える影響を解析する。まず観察されたクラスター状のWFA染色が存在する組織学的構造を明らかにするため、抑制性シナプス終末(VGAT)との共染色を行う。また、プルキンエ細胞からホールセル記録を行い抑制性シナプス伝達の発達変化を解析し、この過程におけるperineuronal netの分解酵素投与(bacterial enzyme chondroitinase ABC)の影響等を解析する予定である。また、ミクログリアがperineuronal netの分解・維持にかかわる可能性を検証するため、小脳皮質からミクログリアが消失したマウスを用いて解析を行う。さらに、令和元年度の解析からKv11.3ノックアウトマウスが下オリーブ核の閾値化膜電位オシレーションが消失したマウスであることが明らかになったため、このマウスを用いて登上線維の刈り込みの以上の有無を解析する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Sci Rep.
巻: 9 ページ: 7353
10.1038/s41598-019-43744-z.
Neurosci. Res.
巻: - ページ: -
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