成熟動物の小脳プルキンエ細胞は1本の登上線維により単一支配されているが、生後直後には複数の登上線維により多重支配を受けている。マウスでは生後3週の間に過剰な登上線維が刈り込まれ、単一支配に移行することが知られている。この登上線維の刈り込みの機序と、登上線維起始核の下オリーブ核の機能的成熟との関連を明らかにすることが研究の主な目的となる。抑制性シナプスの周囲を覆うとされているperineuronal netの形成・分解がシナプスの刈り込みに影響する可能性を検討するため、perineuronal netの染色を行った。その結果、生後8日以前では小脳プルキンエ細胞周辺にperineuronal netを染色するWFAのクラスター状の染色と分子層の全体的な染色が観察されるが、生後14日以降では消失することを見出した。WFAのクラスターがどこに作られているか解析するため、抑制性シナプス終末のマーカーであるVGAT、バーグマングリアのマーカーである3PGDH、および興奮性シナプス終末のマーカーであるVGluT2とWFAの共染色を行った。その結果、3PGDHと染色像が重なることが確認されたため、抑制性ニューロンではなくバーグマングリア周辺に存在することが明らかになった。現在は生後8日前後の小脳急性スライスにperineuronal netの分解酵素を作用させ、シナプス伝達に与える影響を解析中である。また、下オリーブ核の周期的活動に重要な電気的膜特性と考えられているresonance特性に必須な要素の一つとして、Kv11.3(Kcnh7)の解析を論文に発表した。今後、Kv11.3ノックアウトマウスを用いて、閾値下膜電位オシレーションが消失し、下オリーブ核の活動が変化した状態でのシナプス刈り込みを解析する予定である。
|