研究課題/領域番号 |
17H03552
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
野村 真 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10323007)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大脳皮質 / 扁桃体 / DVR / 発生 / 進化 |
研究実績の概要 |
ヒトを含めた哺乳類の大脳外套領域は高度に特殊化した形態と機能を備えているが、こうした神経解剖学的構造が進化の過程でどのようにして獲得されたのかは未だ明らかとなっていない。特に哺乳類の大脳に存在する大脳皮質、扁桃体、前障といった構造は、他の脊椎動物の大脳には観察されない独特の脳構造である。このような哺乳類大脳に固有の神経解剖学的構造が進化の過程でどのようにして獲得されたのかについては、多くの神経解剖学者が100年以上に渡り考察と論争を続けているが、未だに決着がついていない。そこで本研究課題では、哺乳類と非哺乳類(爬虫類、鳥類)の大脳初期発生過程の遺伝子発現や細胞の挙動について定性的、定量的な比較解析を行い、種に固有の大脳外套構造を生みだす発生学的基盤を明らかにすることを目標とする。本年度は哺乳類(マウス)、爬虫類(ヤモリ、カメ)および鳥類(ニワトリ)の発生期の大脳原基における遺伝子発現様式の比較とその機能解析を行った。特に、外套および外套下領域を区分する転写因子である Pax6 についてその発現様式と機能解析を行ったところ、哺乳類と鳥類の外套神経前駆細胞の増殖・分化率における種特異的なPax6の機能を同定することに成功した。また、羊膜類の外套におけるShh とその受容体であるPtchdの発現を種間で比較した結果、受容体の発現様式とDVR の領域が一致することを見出した。さらに、Shh シグナルを伝達する主要な転写因子であるGli3 の抑制型変異体を鳥類大脳で強制発現したところ、鳥類のDVR の隆起が消失することを見出した。これらの結果から、爬虫類、鳥類の外套に独特な構造であるDVR はShh シグナルの時間的・空間的な発現変化によって引き起こされた可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脊椎動物の外套領域に普遍的に発現する転写因子Pax6 の種特異的な機能について、遺伝子強制発現やゲノム編集ツールを用いて明らかにすることができた。また、Shh シグナル分子の種特異的な発現と外套形態の多様性との間の因果関係を示唆するデータを得たことにより、大脳皮質と扁桃体の進化過程の基盤を理解する上での足がかりを掴んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
外套領域の神経前駆細胞の細胞周期と神経分化率の種間比較 哺乳類、鳥類、爬虫類の外套領域の神経前駆細胞の増殖と分化頻度を解析するため、DNA合成時に取り込まれるチミジン同位体 (BrdUあるいはEdU)による積算標識法あるいは二重標識法により、神経前駆細胞の細胞周期を免疫組織化学的手法により解析する。また、Taliイメージングサイトメーターを用いて個々の細胞のDNA含有量からG1/G0 - S - G2/M期の細胞の割合を定量化する。さらに、蛍光リポーター発現遺伝子の導入によって神経前駆細胞を標識した脳標本をスライス培養し、タイムラプス観察を行うことで前駆細胞の分裂頻度や子孫細胞の運命を解析する。
シグナルカスケード・リポーターによるモルフォジェン応答活性の種間比較 外套領域の神経前駆細胞の予定運命や増殖・分化率を決定する機構を探るため、大脳原基の局所的シグナリングセンターより分泌されるモルフォジェンであるSonic hedgehog (Shh) の発現量と外套における受容領域の種間比較を行う。Shh を含めた様々なモルフォジェンの発現量と時空間的な発現様式を定量化するため、定量的PCR、Western blotting、蛍光in situ hybridization による解析を行う。また、モルフォジェン受容細胞の分布やモルフォジェンによって惹起されるシグナル強度の定量化を行うため、Shh の受容によって活性化される転写因子の結合配列を持つリポーターベクター (p4xGli Binding Site-luc/dGFP) を哺乳類、爬虫類、鳥類胚の外套領域に導入し、リポーターの発現強度をルシフェラーゼアッセイあるいは蛍光リポーター強度測定によってシグナル強度の比較定量化を行う。
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