研究課題/領域番号 |
17H03555
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
内原 俊記 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 特任教授 (10223570)
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研究分担者 |
吉田 眞理 愛知医科大学, 付置研究所, 特命研究教授 (60288545)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 4リピートタウ / 脱アミド化 / アルツハイマー病 / 進行性核上性麻痺 / 髄液診断 |
研究実績の概要 |
本研究の当面目標は、疾患により異なるタウ沈着病態を反映する D279-4Rタウを髄液中で定量するELISA系を確立し臨床応用することである。すでにポリクローナル抗体でこのD279エピトープ発現がADに豊富で、PSPに乏しいことを明らかにしたが、安定したELISA系の確立のために、新たにD279-4Rモノクローナル抗体を作成する。特許申請し審査が終了した免疫吸着法を用いれば、 D279への反応性は高いがN279への反応性は乏しいクローンを選定できる。並行して新たなD279ポリクローナル抗体も改めて作製し、このエピトープの特徴を複数の抗体で検証する。以上により4Rタウに対する抗体はi)N279特異的なRD4(市販品), ii)N279/D279両者に反応する4R(市販品), iii)D279特異的なD279-4R(モノクローナルおよび、ポリクローナル抗体一部作成済)が得られることを最初の目標とする。ポリクローナル抗体から精製したD279-4R分画はAD病変を陽性に染するが、PSP例のタウ病変を陽性に染色しないことを2019年に論文発表した。 ADと PSP・CBD脳をD279-4R抗体(モノクローナルおよびポリクローナル)を用いて比較する。ADとPSP/CBD例の異なる部位D279-4R陽性の病変を網羅的に検索する。検索の範囲を基底核や脳幹へ拡大しCBD例も加えて例数を増やし、包括的な検索を進める。並行して、 剖検脳を用いた Western blotを行い D279-4R抗体の特異性を生化学的にも確認し、ポリクローナル、モノクローナル抗体で比較する。その上で、D279-4R特異的なELISAを構築し、髄液診断の精度を高めることが第一の目的となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ポリクローナル抗体の作成:抗原に用いるD279を含む4Rタウ特異的ペプチドの配列を最適化して家兎を免疫した。いずれも市販抗体と同様にN279/D279に反応するが、免疫吸着法を用いてN279への親和性に乏しい分画が同様に得られることを確認した。 モノクローナル抗体の作成: D279に親和性の高いマウスハイブリドーマ樹立を試みたが成功しなかった。そこでD279抗原で免疫した家兎脾臓よりヒトIgGvariable regionのみのcDNA libraryを作成し、大腸菌に発現させてD279抗体に反応する105クローンを樹立したが、力価が不十分であった。そこで同様に免疫した家兎脾臓のB細胞からD279-4Rエピトープに対する抗体を発現しているものをsortingし、その遺伝子からIgGを再構成し、複数の候補クローンを得た。これらのクローンを安定的発現系に移したが、期待された特性のIgG発現は確認できなかった。 特許出願:特願2017-098795「4リピートタウの質的違いを検出する特異的結合試薬、これを用いた検査方法、検査キット、及び医薬のスクリーニング方法」【発明者 内原俊記 100%】の審査請求を2020年5月に開始し、特許として認定するとの査定の連絡を2021年5月に受けた。
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今後の研究の推進方策 |
D279特異的家兎モノクローナル抗体の作製:免疫原のペプチドデザインを既に最適化し、家兎でD279特異的分画を含むポリクローナル抗体の産生があることを、繰り返し確認した。免疫した家兎脾臓のB細胞からD279-4Rエピトープに対する抗体を発現しているものをsortingする条件も今回最適化し、その遺伝子からIgGを再構成する方法でいくつかのクローンを選別することを再度試みる。 病態解明:これらの抗体を用いてADとPSPヒト剖検脳のdot blot, Western blot, 免疫組織化学で検証する。 髄液ELISAへの応用:D279特異的抗体を用いた髄液タウの測定でADとPSPを区別できるか検討する。モノクローナル抗体を用いた髄液ELISAの確立が最も望ましいが、抗体の樹立は容易ではない。既に実績のある家兎ポリクローナルIgGのD279特異的分画を用いたELISA系の確立を並行してめざす。 画像診断や治療法への発展:AD特異的な4Rタウ抗体は他に報告がないが、特異度、感度の高いモノクローナル抗体が得られれば、ヒト脳タウ沈着の分布のトレーサーや、タウ免疫治療の主働役として発展させられる可能性がある。 特許権の確立と拡大:特許として確定した本発明の市場化を念頭に、病態解明をすすめ市場価値をアピールする。今後モノクローナル抗体が得られれば、海外特許出願も念頭に関連手続きを進める。
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