研究課題/領域番号 |
17H03556
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
南 雅文 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (20243040)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 薬理学 / 神経科学 / 薬学 |
研究実績の概要 |
分界条床核2型神経と3型神経間の抑制性シナプス情報伝達の亢進は、3型神経細胞活動抑制とそれに続く腹側被蓋野GABA神経の脱抑制を介して、ドパミン神経活動を抑制し、うつ症状を惹起することが考えられる。平成29年度の研究では、慢性痛モデル動物として、脊髄神経結紮による神経障害性疼痛モデルラットを用い、当該シナプス情報伝達の変化を脳スライスパッチ法による電気生理学的解析により検討した。腹側被蓋野に蛍光標識した逆行性トレーサーを注入し、腹側被蓋野に投射する神経を同定して抑制性シナプス後電流(IPSC)を記録したところ、神経障害性疼痛モデルラットにおいて抑制性シナプス情報伝達が亢進していた。2型神経細胞の興奮性について、より生体内での状態に近い神経活動を観察するために、細胞膜を破らず細胞膜に電極を密着させて活動を記録するcell-attached法で自発的な発火頻度を計測したところ、慢性痛モデル動物において自発発火頻度の上昇が観察された。慢性痛モデル動物では、分界条床核2型神経細胞の興奮性増大により、腹側被蓋野に投射する3型神経細胞への抑制性入力が亢進し、結果としてドパミン神経活動を抑制して抑うつ症状を惹起している可能性が考えられた。また、条件付け場所嗜好性試験により慢性痛モデル動物における脳内報酬系機能を調べたところ、術後4週間の時点においては報酬刺激による場所嗜好性が獲得されず、痛みの長期化により脳内報酬系に機能不全が生じている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、慢性痛モデル動物における分界条床核内抑制性シナプス情報伝達および分界条床核2型神経細胞興奮性について検討を行い、慢性痛動物においてそれらが亢進していることを明らかにした。また、条件付け場所嗜好性試験により慢性痛モデル動物における脳内報酬系機能を調べ、4週間の慢性痛により脳内報酬系に機能不全が生じている可能性を示唆する実験結果を得た。以上より、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、慢性痛時に分界条床核で観察された神経情報伝達可塑的変化に関わる神経ペプチドを明らかにする。さらに、この分界条床核内神経情報伝達の可塑的変化が、慢性痛とうつ病に共通の神経基盤として機能しているか否かを明らかにするため、うつ病モデル動物として慢性軽度ストレスモデルラットを用い、当該シナプス情報伝達の変化を脳スライスパッチ法による電気生理学的解析により検討する。腹側被蓋野に逆行性トレーサーを注入し、腹側被蓋野投射神経を同定して抑制性シナプス後電流(IPSC)を記録する。うつ病モデル動物において抑制性シナプス情報伝達亢進が確認された場合、2型神経細胞の神経興奮性について検討するため、cell-attached法で自発的な発火頻度を計測する。また、分界条床核内における神経活動変化をイメージングするために、神経障害性疼痛モデルマウスを用い、小型蛍光顕微鏡やファイバーフォトメトリーを用いたインビボ神経活動計測系を確立する。神経障害性疼痛モデルマウスにおいてもラットと同様の分界条床核内神経情報伝達可塑的変化が惹起されるか否かについて、脳スライスパッチ法を用いた電気生理学的解析により検討する。
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