研究課題/領域番号 |
17H03562
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松田 恵子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (40383765)
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研究分担者 |
荒井 格 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (00754631)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シナプス / 海馬 / カイニン酸 |
研究実績の概要 |
入力線維が分泌する C1q/TNF ファミリー分子が、シナプス前部の neurexin 受容体と、シナプス後部のグルタミン酸受容体とを機能的につなぐ”橋”として機能し、シナプス形成とシナプス機能を制御する分子基盤を明らかにすることが本研究の目的である。 グルタミン酸受容体であるカイニン酸受容体サブユニット GluK2 GluK4 および AMPA 型グルタミン酸受容体 GluA1 サブユニットは細胞外のATD 領域において分泌性因子 C1ql2 C1ql3 と結合する。このATD領域が、シナプス前部と後部を機能的に繋ぐ新たな領域である可能性を探った。 C1ql2 C1ql3 はシナプス前部の neurexin とも結合する。ここからシナプスを挟んで シナプス後部のグルタミン酸受容体とともに複合体形成する可能性を検討した。GluK4 は C1ql2 C1ql3 を介して neurexin3 S5 領域と複合体を形成するが、GluK2 および GluA1はしないことが判明した。 また、C1ql2 C1ql3両遺伝子、あるいはneurexin3 S5領域欠損マウスの苔状線維-CA3シナプスにおいて、シナプス前部でのシナプス小胞の枯渇が同程度早いという結果を見出した。このことは上記複合体がこのシナプスにおいて機能している可能性を示唆している。 培養神経細胞の系においてGluK2 ATD領域にグルタミン酸作動性のシナプス前部を分化させる機能があることを見出した。このシナプス前部分化にはneurexin受容体の集積が見られなかったこと、GluK2 ATD領域はneurexinとの相互作用しなかったことから、GluK2 の ATD 領域にはneurexin以外の相互作用分子がシナプス前部に存在する可能性が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
入力線維からシナプス間隙に分泌されたC1q/TNF ファミリー分子であるC1ql2およびC1ql3、シナプス前部の neurexin 受容体、シナプス後部のグルタミン酸受容体という、これら3者が機能的なタンパク質複合体を形成することによる、シナプスを挟んだ相互作用の分子基盤を明らかにすることが目的である。 この複合体が、シナプス後部側へどのような機能を持つかについてであるが、シナプス後部グルタミン酸受容体であるGluK2のATD領域に、C1ql2およびC1ql3が結合すること、C1ql2およびC1ql3両遺伝子欠損マウスではシナプス後部のGluK2のシナプス局在が見られなくなったことは既に報告した。逆にGluK2を欠損させたマウスでは、シナプス間隙において分泌されたC1ql2およびC1ql3のシナプス局在が見られなくなった。この複合体のシナプス局在に対するシナプス前部 neurexin 受容体の効果を見るために、neurexin3 S5領域欠損マウスを解析したところ、シナプス後部GluK2、シナプス間隙C1ql2およびC1ql3のシナプス局在には変化は見られず、シナプス前部neurexin 受容体は、シナプスにおけるC1ql2/3 - カイニン酸受容体複合体の局在に影響しないことが明らかとなった。 次に、この複合体がシナプスを挟んで形成されることがシナプス前部の機能に与える効果について、C1ql2/3両遺伝子欠損マウス、およびneurexin3 S5領域欠損マウスを用いて解析した。両系統マウスの苔状線維-CA3シナプスにおいて、シナプス小胞の枯渇の増強というシナプス前部分化への共通した表現型を解明できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の2点について研究を進める。 1)シナプス後部に局在するAMPA型グルタミン酸受容体サブユニットであるGluA1のATD領域にも、C1ql2およびC1ql3が結合することをすでに見出している。これまで、C1ql2およびC1ql3両遺伝子欠損マウスでは、苔状線維-CA3シナプスにおけるAMPA型グルタミン酸受容体応答に変化がないことを示した。しかし、C1ql2およびC1ql3は、当シナプスに豊富に存在するAMPA型グルタミン酸受容体サブユニットGluA2やGluA3には結合しないため、AMPA型グルタミン酸受容体応答に対するC1ql2 C1ql3の効果は、GluA1サブユニット特異的に解析する必要がある。そこで、培養神経細胞にカルシウムが透過するタイプのGluA1を強制発現させた材料に対し、C1ql2やC1ql3を過剰投与することによって、GluA1サブユニットホモマーに対するC1ql2 C1ql3の効果を電気生理学的に明らかとすると同時に、特異的抗体を用い局在解析を行う。 2)シナプス後部に局在するカイニン酸受容体にシナプス前部分化を誘導する機能があることが明らかとなった。C1ql類との相互作用の必要性を明らかとする。また新たな分子基盤を探索する目的で、GluK2のATD領域に結合するシナプス前部受容体の同定を行っている。この過程で候補となりうる2つの受容体を明らかとすることができた。今後はこれら分子が、カイニン酸受容体によるシナプス前部分化の誘導にどのように関与するか、欠損マウスの解析を含め、電気生理学的あるいは細胞生物学的に解析を進める予定である。
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