研究課題
本研究では,閉塞性肺疾患の発症や病態進行に関わるPulmo-modulatory因子を抽出し,ここで見出した因子に関して,その治療標的としての妥当性について,多方面から解析した.まず,本研究では,COPDモデルマウス肺組織で発現変動する遺伝子群の中から,亜鉛の細胞内輸送を担うZrt-Irt -like Protein 2 (ZIP2) に着目し,種々の検討を行った.その結果,ヒト閉塞性肺疾患モデル気道上皮細胞 (ENaC過剰発現細胞,cystic fibrosis患者由来細胞) では,ZIP2 遺伝子のintron 1がexonに変化した,新規アイソフォーム (ΔC-ZIP2) が高発現することを見出した.一方,閉塞性肺疾患気道上皮細胞では,正常型ZIP2遺伝子の発現は減少し,結果として,正常型ZIP2タンパク質発現量および細胞内への亜鉛取り込み能が低下すること,さらには,気道上皮細胞内の亜鉛濃度の減少は,閉塞性肺疾患時に特徴的な遺伝子発現変化を一部模擬することが明らかになった.また, ヒトΔC-ZIP2に類似した不完全型アイソフォームZIP2の発現上昇は,C57BL/6-βENaC-Tgマウスの気道上皮組織においても認められ,ZIP2発現異常の肺疾患病態における普遍性が示された.さらに,尿酸に関する研究も解析した.その結果,疫学解析において、通常加齢に伴い呼吸機能が低下するが,尿酸平均値が 6 mg/dl以上の70歳以上の女性は,4 mg/dl 以下の群と比べ FEV1 % 値が有意に高いことが示された.さらに,2 種類の尿酸値上昇 COPD マウスモデルを用いた検討結果から,尿酸値の上昇は, COPD 雌マウスにおいてのみ, 呼吸機能および肺気腫病変を改善することが示された.
2: おおむね順調に進展している
当初予定通り,閉塞性肺疾患における亜鉛および亜鉛トランスポーターの役割について明らかにした.また,女性・雌マウスにおける尿酸と病態時の呼吸機能の関係性についても,明らかにすることに成功した.
本研究の結果より,閉塞性肺疾患時には,ΔC-ZIP2/正常型ZIP2の発現比が増加し,その結果生じた気道上皮の細胞内亜鉛濃度の低下が肺病態形成に重要であることが示された.尿酸値と生理的・病態生理的呼吸機能低下の関係性には性差が存在し、女性における血中尿酸値高値が,加齢に伴う呼吸機能低下の抑制とCOPD病態進行抑制に関わることを示唆するものであった.また,本研究は,過去の疫学研究において因果関係が不明瞭であったCOPD病態時における血中尿酸値と呼吸機能の関係性を実験的に示した.特に,これまで多くの疾患において尿酸による負の側面 (尿酸結晶生成,酸化ストレス誘発など) が注目を浴びているが,本研究は,疫学及び実験動物を用いた前向き試験を駆使し,女性の呼吸機能の維持における尿酸の正の側面を初めて明らかにするものである.今後,亜鉛,尿酸の側面から,呼吸器疾患の病態形成の詳細なメカニズムについて種々の方法で明らかにするとともに,他のpulmo-modulatory因子の抽出も試みる予定である.
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