研究課題
平成30年度は、古典的Wntシグナル(β-catenin/TCF7L2)により転写抑制されるinterferon-induced protein with tetratricopeptide repeats 2 (IFIT2) について、その発現調節メカニズムの詳細な解析を行った。IFIT2の転写開始点のすぐ上流の-20~+20に、Wntシグナルで調節される転写調節領域があることを発見した。さらにその領域に結合する候補転写因子としてinterferon regulatory factors 1-9 (IRF1-9) が予測された。これらの候補転写因子を細胞内に過剰発現させ、IFIT2のレポーター活性や発現を変化させるか検討したところ、IRF1とIRF7がレポーターの活性化と共に発現上昇を引き起こすことが示された。また、このうちIRF1だけがWntシグナルにより発現抑制されることが判明した。これらの結果からWntシグナルの活性化によるIFIT2の発現低下には、IRF1の発現低下が関与することが示唆された。次にIRF1の発現低下に、転写や翻訳、タンパク分解が関係するかどうか調べたところ、Wntシグナルの活性化によるIRF1タンパク質の不安定化が関与していることが明らかとなった。また別の解析でIRF1の過剰発現がアポトーシスを誘導することから、IRF1の発現低下は腫瘍細胞の細胞死回避に寄与していることが示された。上記の結果に加えて、古典的Wntシグナルにより発現誘導される新規遺伝子Xについて、その転写調節領域の探索を行ったところ、Xの5'-flanking領域にWntシグナルにより転写が活性化される領域を同定した。さらにこの領域内にTCF7L2結合モチーフを複数同定し、これらのモチーフが転写活性化に重要であることも突き止めた。
1: 当初の計画以上に進展している
昨年度(平成29年度)は、古典的Wntシグナルにより転写が抑制される候補遺伝子としてinterferon-induced protein with tetratricopeptide repeats 2 (IFIT2)遺伝子を同定した。またその発現調節機序の解析により、IFIT2プロモーター領域にWntシグナルで抑制される領域があることを見出した。平成30年度は、その領域に結合する候補分子の解析から、IRF1がIFIT2の転写に関わっていること、さらにIRF1がWntシグナルによって負に制御されることを発見した。またWntシグナルによるIRF1の抑制には、タンパク質の安定性の低下が関わっていることを見出した。この発見は、Wntシグナルの活性化がβ-カテニンタンパク質の安定性を増加させその発現を誘導する一方で、IRF1タンパク質の安定性を低下させその発現を減少させていることを示したもので、Wntシグナルの下流分子の新たな調節機序を示すものである。またこれらの結果は、論文(Ohsugi T, et al. Oncotarget 8(59):100176-100186, 2017.)として報告されたほか、Oncogeneにアクセプトされ現在印刷中である。さらにWntシグナルにより発現が誘導される遺伝子の解析では、FRMD5が新たな下流遺伝子であること、その発現がDNA複製や細胞周期、細胞外マトリクスとの関連に関与することを明らかにし報告している(Zhu C, et al. Cancer Sci, 108(4): 612-619, 2017.)。以上のことから、研究は計画以上に順調に進んでいると思われる。
今後(2019年度)は、β-catenin/TCF7L2 により転写抑制される調節転写因子として同定されたInterferon Regulatory Factor 1 (IRF1)について、その調節メカニズム検討を行う。平成30年度までの研究から、IRF1がWntシグナルにより抑制されていることが明らかになった。そこで、どのような機序によりWntシグナルがIRF1を抑制するのかを解明する予定である。さらにIRF1以外に同様のメカニズムで負に抑制されている分子がないか、候補分子の探索も実施する。候補分子が発見された場合には、それらの機能や下流分子の同定も試みる。またβ-catenin/TCF7L2 により発現誘導される新規遺伝子Xの上流で、Wntシグナルにより制御される転写調節領域にβ-catenin/TCF7L2複合体が結合するかどうか検討する。さらにXがどのような機能を有しているのかを、がん細胞におけるsiRNAによる機能阻害や、非発現細胞における遺伝子導入によりどのような遺伝子発現、あるいは表現型に変化をもたらすのかを調べる。そして、Xの抑制ががん細胞の新規治療法候補となるか、あるいは腫瘍のバイオマーカーとなるかどうかも調べる予定である。
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