研究課題/領域番号 |
17H03578
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
仲 一仁 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 准教授 (70372688)
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研究分担者 |
坂本 直也 広島大学, 医歯薬保健学研究科(医), 助教 (20571798)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / CML / Wnt/β-catenin / Lgr4 / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
慢性骨髄性白血病(CML)患者の生命予後はチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) の開発によって飛躍的に改善されたが,再発が臨床上の重大な問題となっている.近年,このようなCMLの再発の原因としてCML幹細胞が注目されている.これまでに,生体内におけるCML幹細胞の制御にはWnt/β-cateninシグナルが重要な役割を担うことが報告されているが,その制御メカニズムは明らかではない.研究代表者は,RNAシークエンスによる網羅的遺伝子発現により,CML幹細胞ではWnt/β-cateninシグナルの制御に関わるLgr4が高発現していることを発見した.本研究では,生体内でのCML幹細胞の自己複製能やTKI抵抗性の制御におけるLgr4の役割の解明を目的とした研究を行なう. 平成29年度,マウスCML幹細胞に対するLgr4 siRNAの導入による抑制効果, 並びにCRISPR/Cas9を用いたLgr4遺伝子のゲノム編集の検討を開始した. テトラサイクリン制御性CMLマウスモデルから純化したCML幹細胞にCy3で蛍光標識したLgr4 siRNA (Dharmacon社) を導入し,Cy3陽性細胞をソーティングして,in vitroにおけるコロニー形成能を解析した.その結果,Cy3陽性 (Lgr4 siRNA導入) CML幹細胞ではCy3陰性CML幹細胞と比較してコロニー形成能の低下が認められた.すなわち、CML幹細胞の制御にLgr4が関与している可能性が示された. 次いで,Lgr4を標的とするCRISPR/Cas9システムの構築を試みた.Cas9 エンドヌクレアーゼとLgr4 gRNAを発現するレンチウイルスベクターを構築し,ヒトがん細胞株に導入してLgr4のゲノム編集の検討を行なった.シークエンスの結果,Cas9/Lgr4 gRNA複合体の導入によりLgr4のゲノム編集を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度,計画通り,マウスCML幹細胞に対するLgr4 siRNAの導入による抑制効果, 並びにCRISPR/Cas9を用いたLgr4遺伝子のゲノム編集の検討を行った. まず,CML幹細胞にLgr4を標的とするsiRNAの導入してin vitroでのコロニー形成能を解析し,Lgr4の抑制によるコロニー形成能の阻害効果を見出した. 次いで,in vivoでのCML幹細胞の自己複製能の維持におけるLgr4の役割を明らかにするため,CRISPR/Cas9システムによるLgr4遺伝子のゲノム編集を開始した.まず,ヒトとマウスの共通の配列を標的とするLgr4 gRNAをデザインし,ヒト大腸がん細胞株SW480を用いてレンチウイルスによるCas9/Lgr4 gRNAの導入を試みた.シークエンス解析の結果,当該Lgr4 gRNAによるゲノム編集を確認した. 一方で,レンチウイルスによるゲノム編集では,恒常的なCas9/gRNAの発現によるオフターゲット効果が懸念される.そこで,タンパク質寿命が72時間と短いリコンビナントCas9エンドヌクレアーゼを用いて,一過的なゲノム編集を試みた.上記のLgr4遺伝子を標的とするLgr4 gRNA (IDT社),蛍光色素ATTO550で標識したtracr RNA (IDT社),並びにリコンビナントCas9 (IDT社)の複合体を形成させた.このリコンビナントCas9/Lgr4 gRNA-ATTO550複合体をNeon Transfection System (ThermoFisher社) を用いたエレクトロポーレーション法により導入した.48時間後,ATTO550陽性細胞をセルソーターを用いて純化することに成功した.今後,ゲノム編集CML幹細胞をレシピエントマウスに移植して,in vivoでのCML幹細胞の維持能力を解析する計画である.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度以降,生体内でのCML幹細胞の未分化性の制御におけるLgr4の機能を明らかするため,Cas9/Lgr4 gRNAレンチウイルスベクターをCML幹細胞に導入後,レシピエントマウスに移植を行なう.併せて,CML幹細胞にCas9/Lgr4 gRNA (ATTO550標識)を導入し,ATTO550陽性CML幹細胞をソーティングして,レシピエントマウスに移植を行なう.これらのCML幹細胞を移植したマウスにイマチニブの投与を行い,CML幹細胞のTKI抵抗性の制御におけるLgr4の役割を明らかにする. さらに,Lgr4遺伝子トラップマウスを用いてCMLマウスモデルを構築し,CML幹細胞のTKI抵抗性の解析を行なう予定である.通常のLgr4の遺伝子欠損マウスは胎児期成長遅延や出生後致死のため解析が困難であることが報告されている.一方,熊本大学の星居,荒木,山村らによって樹立されたLgr4遺伝子トラップマウスでは約10%程度のLgr4の遺伝子発現が報告されている.そこで,熊本大学よりこのLgr4 hypomorphicマウスの供与を受け,CMLのマウスモデルを構築する.これらのマウスからCML幹細胞を純化し,レシピエントマウスに移植を行なって,in vivoでのCML幹細胞の自己複製能の制御におけるLgr4の役割を明らかにする.さらに,これらのマウスにイマチニブの投与を行い,CML幹細胞のTKI抵抗性の制御におけるLgr4の役割を明らかにする. 他方,in vitroにおいて,Lgr4を標的とするCML幹細胞治療薬の候補化合物の探索を行う計画である.生体内環境を模倣した低酸素 (3%O2) 環境下,マウスCML幹細胞をメチルセルロース培地中で培養して,Wnt/Lgr4/β-catenin経路を阻害する化合物の処理を行って,CML幹細胞のコロニー形成能力に対する抑制効果を解析する.
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