研究課題
我々が細胞死誘導性リン酸化酵素として同定したDYRK2は、これまでの内外の研究から癌に抑制的に働くことが、乳癌、卵巣癌、肺癌、膀胱癌、大腸癌などで報告されている。本研究ではDYRK2の癌抑制機構について、その肝細胞性と転移に焦点を当てて調べている。まず、大腸癌の肝転移におけるDYRK2の役割について、 動物実験モデルで検証した。大腸癌細胞株HCT-116にE2-Crimsonを導入し、蛍光標識による追跡を可能にした。ヌードマウスの脾臓に癌細胞を注入し経門脈による肝転移を誘導し、転移巣から腫瘤を回収した。E2-Crimson陽性細胞をセルソーターで分離しDYRK2の発現を調べたところ、有意にその発現が低下していることを見出した。そこでHCT-116にDYRK2を安定的に発現する細胞株を樹立し、マウス肝転移モデルで検証したところ、野生型DYRK2を発現した細胞株では有意に転移能が減少したが、リン酸化酵素活性のないDYRK2発現細胞では、コントロール細胞と同等の転移能を示した。以上の結果から、DYRK2の発現抑制が大腸癌の転移を促進すること、翻ってDYRK2の強制発現によって酵素活性依存的に転移を抑制できることが示唆された。さらに手術検体を用いてDYRK2の発現レベルと予後について検証を行った。DYRK2の発現が高い症例では低い症例に比べて、全生存率、無病生存率それぞれについて有意に高いことが判明した。この結果をふまえて、他の癌種でも同様の結果が得られるかについて検証を開始した。
2: おおむね順調に進展している
癌転移にDYRK2が関与していることを、動物実験モデルで示すことが出来た。これは本研究の根幹をなすものであり、提示した仮説の方向性が概ね正しいことを意味する。DYRK2の発現制御についても、幾つかの機構を想定して研究が進んでおり、来年度以降の成果が期待される。
DYRK2の転移と幹細胞化との関わりを示すことが最大の課題であり、特に幹細胞性維持におけるDYRK2の役割について、研究を進めていきたい。in vitroのみならず、in vivo実験を準備しており、実験系の妥当性を評価している。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件)
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