研究課題/領域番号 |
17H03586
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
武田 はるな 金沢大学, がん進展制御研究所, 助教 (80647975)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | がん抑制遺伝子 / トランスポゾン / 薬剤耐性 / オルガノイド / 大腸がん |
研究実績の概要 |
本研究では、1. 大腸がんドライバー候補遺伝子のがん化能を効率的に検証するための実験系を確立すること、2. Sleeping Beauty (SB)トランスポゾン挿入変異誘発法を用い、シグナル経路阻害剤や大腸がん治療薬に対する耐性を獲得させる遺伝子群をスクリーニングで同定することを目的として研究を進めている。 1.昨年度までに、Apc遺伝子の機能損失型変異とKras遺伝子の活性化型点変異を持つマウス消化管に形成された腫瘍由来のオルガノイドを用い、がん化能検証実験系を確立した。この実験系を用いて3つの新規大腸がん抑制遺伝子の同定へと結びつけることができている。本年度は、これら3つの遺伝子のがん化における機能解析を行った。加えて、ヒト大腸がん由来のオルガノイドを用いた実験系の確立を目標とした。ヒト消化管腫瘍由来のオルガノイドは、がん細胞株と比べ、マウスの皮下に移植した場合に消化管に形成される腫瘍により近い状況を模倣できるという利点がある。ヒト大腸がん由来オルガノイドにおいて、昨年度に同定した3つの新規大腸がん抑制遺伝子をCRISPR-Cas9を用いてノックアウトし、マウスへ移植することで生体内でのがん化能検証を行った。 2.SBトランスポゾン挿入変異誘発システムを導入した細胞を用いると、継続的に挿入変異が誘発されるため、遺伝学的に不均一な細胞集団を得ることができる。このオルガノイドの培養液中に抗がん剤を添加し、耐性を獲得する細胞のゲノム解析を行うことで治療抵抗性獲得に関与する遺伝子群のスクリーニングを行うことが可能となる。本年は、オルガノイドにてスクリーニングを行う方法の条件検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.同定した大腸がん抑制遺伝子のうちの2つがTGF-beta経路に関与するため、ヒト大腸がん遺伝子変異データベースを用い、これら遺伝子がどのような遺伝子と共起的に、又は排他的に変異が誘発されるかを解析した。すると、TGF-beta経路に関与する他の遺伝子と共起的に変異が誘発されることが示された。そこでマウス腫瘍由来のオルガノイドにおいて、共起的に変異が誘発されている複数の遺伝子を同時にノックアウトしマウスへ移植したところ、がん化能が亢進したことよりTGF-beta経路に関与する遺伝子に共起的に変異を誘発し、協調的にシグナル経路を遮断することで大腸がん形成を促進することを明らかにした。 又、ヒト大腸がんオルガノイドを入手し、CRISPRにより遺伝子をノックアウトするための条件の確立を行った。Cas9はレンチウイルスにて導入し、Cas9を恒常的に発現するオルガノイドを樹立した。gRNAは、プラスミドに標的配列をクローニングしレンチウイルスにて導入した。これらの方法にて、目的遺伝子がノックアウトされたオルガノイドを効率よく作成することが可能となった。がん抑制候補遺伝子をヒト大腸由来オルガノイドにおいてノックアウトし、その後、免疫不全マウスへと移植した。腫瘍形成能が有為に促進したことより、ヒト由来の細胞においてもがん抑制遺伝子として機能することを生体レベルで証明した。 2.SBトランスポゾン挿入変異誘発システムは、SBトランスポゾンとSBトランスポゼースより構成される。これら二つの要素をもつマウスを交配により作成した。オルガノイドが不死化しやすいように、Apc遺伝子の機能欠損型変異とKras遺伝子の活性化型点変異も予めマウスに導入した。得られたマウスの消化管上皮細胞よりオルガノイドを樹立した。オルガノイドの培養液中に抗がん剤やシグナル経路阻害剤を添加し、耐性を獲得する細胞を得た。
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今後の研究の推進方策 |
1.ヒトとマウス腫瘍由来のオルガノイドを用いたがん化能検証実験系を確立できたので、他の新規がん抑制候補遺伝子についても検証実験を行い、機能解析を進める。対象とする候補遺伝子は、以前のSBトランスポゾンを用いた生体内でのスクリーニングにて同定した、大腸がんドライバー候補遺伝子とする。候補遺伝子の中には、ヒトの大腸がんにおいても変異が認められるが機能未知な遺伝子も複数存在するので、これら遺伝子を優先的に検証し、機能解析を行う。ヒト由来の腫瘍オルガノイドを用いることで、ヒトの大腸がんでも同様の現象が起きるかを検証する。これらの実験により、新規大腸がん抑制遺伝子の同定に結びつけ、新たな抗がん剤の標的の開発へと貢献できるようにする。 2.オルガノイドの培養液中に抗がん剤やシグナル経路阻害剤を添加し、耐性を獲得する細胞を得ることができたので、これらの細胞よりゲノムを抽出し、SBトランスポゾン挿入部位の同定を行う。具体的には、ゲノムを制限酵素にて切断して断片化し、その両端にリンカーを付加する。その後、トランスポゾンに対するプライマーと、リンカー配列に対するプライマーを用いてPCR増幅することでトランスポゾン挿入部位を特異的に増幅する。これらPCR産物を次世代シーケンサーで解読し、トランスポゾン挿入部位を明らかにする。その後、トランスポゾンが高頻度に挿入されているゲノム部位を情報解析により同定することで、治療抵抗性獲得に関与する遺伝子群のスクリーニングを行う予定である。
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