研究課題
オルガノイド培養技術により、組織幹細胞やがん幹細胞を 3 次元で培養することで、生体内の組織や腫瘍を in vitro で再現することが可能になった。当該年度の研究により、複数の肝内胆管がん、胆嚢がんおよび膵臓がんの患者より提供されたがん組織を用いてオルガノイドを樹立し、1 年以上にわたり安定的に培養・維持することに成功した。これらの患者の胆道・膵臓がんオルガノイドは、生体内の腫瘍と組織学的にも機能的にも極めて高い類似性を示すことを確認している。これらの胆道・膵臓がんオルガノイドを用いて、遺伝子変異解析および遺伝子発現解析を行い、非がん組織由来のオルガノイドに比べて特に発現が上昇している遺伝子や低下している遺伝子を特定した。また、分子標的治療薬の 1 つであるエルロチニブを投与することで、増殖が抑制されるがんオルガノイド(感受性あり)と、増殖が抑制されないがんオルガノイド(感受性なし)が存在することが明らかとなり、胆道・膵臓がんオルガノイドにおいてエルロチニブに対する感受性あり、なしで発現が大きく異なる遺伝子についても特定した。臨床データベースを用いて、これらの遺伝子発現とがん患者の予後(生存期間)を解析したところ、SOX2、KLK6、CPB2 遺伝子の発現と患者予後が統計学的に有意に相関しており、SOX2、KLK6、CPB2 遺伝子が高発現している患者の予後が特に不良であることを見出した。さらに、樹立した胆道・膵臓がんオルガノイドを用いて、既存薬ライブラリーによる薬物スクリーニングを行い、抗真菌薬であるアモロルフィンおよびフェンチコナゾールが胆道・膵臓がんオルガノイドの増殖を抑制することを見出した。抗真菌薬であるアモロルフィンおよびフェンチコナゾールが、胆道がんおよび膵臓がんを最小限の副作用で効率的に抑制する新規予防・治療薬の候補になることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、すでに複数の肝内胆管がん、胆嚢がんおよび膵臓がんの患者より提供されたがん組織を用いてオルガノイドを樹立し、1 年以上にわたり安定的に培養・維持することに成功している。これらの患者由来の胆道・膵臓がんオルガノイドは、生体内の腫瘍と組織学的にも機能的にも極めて高い類似性を示すことを確認している。さらに、樹立した胆道・膵臓がんオルガノイドを用いて、遺伝子変異・発現解析ならびに薬物スクリーニングを行い、胆道・膵臓がん患者の予後を予測するバイオマーカーや新規治療薬の候補を特定しているため、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えられる。
前年度に引き続き、胆道系腫瘍および膵臓腫瘍の診断で外科手術を受けた患者より、十分なインフォームド・コンセントのもとに提供された腫瘍組織ならびに非腫瘍部組織を用いて3次元培養を行うことで、合計で50 症例以上の胆道・膵臓腫瘍患者由来のオルガノイドを樹立する。それぞれの症例の病理組織所見および患者の生命予後、転移の有無、血液データなどの臨床情報についても詳細な情報を収集し、樹立したオルガノイドの培養条件や増殖能などとの相関を検討する。安定的な培養・維持が可能になったオルガノイドは、液体窒素にて凍結保存し、ストックを作製することで胆道・膵臓がんオルガノイドバンクを構築する。樹立した胆道・膵臓がんオルガノイドを用いて、遺伝子変異解析および遺伝子発現解析を行い、胆道・膵臓がん患者の予後やThe Cancer Genome Atlasに公開されている臨床データベースを用いて、これらの遺伝子発現と胆道・膵臓がん患者の予後(生存期間)を統合的に解析することにより、胆道・膵臓がん患者の予後を予測する新たなバイオマーカーを特定する。また、樹立した胆道・膵臓がんオルガノイドを用いて、既存薬ライブラリーによる薬物スクリーニングを行う。特に抗腫瘍薬以外の既存薬でがんオルガノイドの増殖を抑制する化合物に注目し、ドラッグリポジショニングにより、胆道がんおよび膵臓がんを最小限の副作用で効率的に抑制する新規予防・治療薬の有力な候補となる化合物を探索する。以上から、様々な胆道・膵臓がん患者由来の組織からオルガノイドを樹立し、胆道・膵臓がんオルガノイドバンクを構築する。さらに個々の症例の病理組織学的・分子生物学的所見を統合し、それぞれの患者の特性に合致したバイオマーカーや治療薬を特定することにより、革新的な個別化治療の基盤となる技術を開発する。
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Cell Reports
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