研究課題/領域番号 |
17H03596
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平田 真 東京大学, 医科学研究所, 特任助教 (50401071)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 骨軟部腫瘍 / ゲノム解析 |
研究実績の概要 |
初年度にあたるH29年度は、主に脱分化型脂肪肉腫のゲノム解析の結果に焦点を当てて、以下の研究を遂行した。 i. 解析対象とする遺伝子異常の選定:脱分化型脂肪肉腫において新規に同定したCTDSP2-DNM3OS融合遺伝子および高頻度に認められたCPM、SLC35E3、MDM2の遺伝子増幅に着目した。 ii.遺伝子異常(体細胞変異、融合遺伝子、コピー数異常)の細胞レベルでの機能解析:脱分化型脂肪肉腫の腫瘍検体を用いて、上記遺伝子異常に着目しその遺伝子異常と発現変化との関連について解析を行った。CPM、SLC35E3、MDM2いずれにおいてもコピー数の高度な増幅を伴う検体においてその発現が亢進し、これらの発現には有意な相関があることが明らかとなった。また、CTDSP2-DNM3OS融合遺伝子についても、DNM3OSの発現を確認すると、融合遺伝子を持つほとんどの腫瘍組織においてDNM3OSのコピー数増幅も生じており、DNM3OSの発現亢進が生じていることが明らかとなった。さらに、この融合遺伝子上にあるMIR214の発現もこれに伴い、高度に亢進しており、MIR214とDNM3OSの発現の間には高い相関があることが明らかとなった。 iii. 遺伝子異常(体細胞変異、融合遺伝子、コピー数異常)のマウスモデルでの機能解析:上記にて着目した遺伝子異常として、BACトランスジェニックマウス、およびCTDSP2-DNM3OS融合遺伝子発現マウスについて遺伝子改変マウスの作成を検討した。現在、CTDSP2-DNM3OS融合遺伝子についてはDNM3OSがnon-coding RNAであり、その遺伝子上にあるMIR214にも着目していることから、現在は融合遺伝子そのものを強制発現させるモデルとするか、MIR214を発現させるマウスを作成するかについて検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨軟部腫瘍ゲノムコンソーシアムで推進中のゲノム解析により別の組織型についても同様に新規・高頻度な体細胞遺伝子変異の同定が進んできている。組織型によっては治療標的あるいは分子マーカーとして有望な遺伝子異常の候補もいくつか挙がってきており、次年度以降もこれらの中から解析対象遺伝子を選定して、解析を遂行していくことは可能である。今年度は、脱分化型脂肪肉腫に特徴的な遺伝子異常についての機能解析を進めることができた。細胞レベルでの機能解析においては、脱分化型脂肪肉腫において最も特徴的で高頻度に生じているCPM, SLC35E3, MDM2の遺伝子増幅の結果生じる、遺伝子発現プロファイルの変化、特徴を明らかにすることができた。また、脱分化型脂肪肉腫において新規に同定されたCTDSP2-DNM3SOS融合遺伝子についても、in silico、in vitroでの解析を進め、融合遺伝子による遺伝子発現の変化について明らかにすることができた。現在、MIR214の発現亢進に着目し、解析を進めているが、このmicroRNAは他のがん腫においても発言が亢進していることが確認されており、TP53やPTENなどのがん抑制遺伝子を標的としていることも報告されている。治療標的として非常に興味深い遺伝子のひとつである。マウスモデルでの機能解析については現在その作成ストラテジーを検討中であり、この点においては少し進捗が遅れている状況である。融合遺伝子については上記のごとくMIR214あるいはnon-codingRNAであるDNM3OSを標的とすることを現在は検討中であり、今後も引き続き遺伝子改変マウスモデルの確立に向けて検討をすすめる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降も引き続き骨軟部腫瘍ゲノムコンソーシアムの解析基盤、解析結果を利用しながら、脱分化型脂肪肉腫以外の他の組織型についても同様に特徴的、特異的な遺伝子異常に着目し、治療標的・分子マーカーの同定を目指して機能解析を進める予定である。他の組織型としては腱滑膜巨細胞腫や軟骨肉腫で高頻度に同定された体細胞遺伝子変異についての機能解析を実施する予定であり、これらの組織型に特徴的な遺伝子異常については既に報告のあるものあるいは骨軟部腫瘍ゲノムコンソーシアムの解析基盤を通じて新規に同定されているものである。これらの遺伝子異常の機能解析としては、今年度と同様に細胞レベルでの機能解析を細胞株やマウス組織由来初代培養細胞などを用いて遂行するとともにマウスモデルを用いた解析も併せて進める予定である。新規のマウスモデルについては現在作成を検討中であるが、既に確立済みのヒト変異型IDH1またはヒト変異型IDH2発現マウスを用いた軟骨腫瘍モデルを用いた解析も実施する予定である。これについては軟骨組織特異的にヒト変異型IDH1または変異型IDH2を発現させたマウスにおいて腫瘍形成が確認されていることから、そのマウス由来の初代培養軟骨細胞を採取し、阻害剤による細胞機能の変化を確認するとともにモデルマウスへの薬剤投与を実施し、腫瘍形成が抑制されるか否かを確認する。また、平成29年度に行った脱分化型脂肪肉腫における遺伝子異常(CPM, SLC35E3, MDM2の増幅/CTDSP2-DNM3OS融合遺伝子)についても、引き続き機能解析を進めていく予定である。
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