研究課題/領域番号 |
17H03600
|
研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
横須賀 忠 東京医科大学, 医学部, 主任教授 (10359599)
|
研究分担者 |
矢那瀬 紀子 東京医科大学, 医学部, 講師 (10210303)
町山 裕亮 東京医科大学, 医学部, 講師 (40704606)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | がん免疫 / 細胞療法 / 分子イメージング / シグナル伝達 / キメラ抗原受容体T細胞 |
研究実績の概要 |
昨年のノーベル医学生理学賞受賞の対象となった通り、今やがん免疫療法の開発は急速に進んでおり、中でもキメラ抗原受容体T細胞(Chimeric antigen receptor-T cell : CAR-T cell)療法の技術革新と臨床応用は目覚ましい。一方、臨床応用が先行しその作用機序の解明が未解決な点など、残された課題も多い。本応募研究では、革新的イメージングシステムの構築、CAR-T細胞のシグナル伝達経路の可視化、CAR-T細胞のがん細胞傷害機構の解明、細胞内シグナル伝達分子を導入した新たなCARの設計を行い、より高い殺傷機能と容易な活性調節機構をもつ次世代CAR-T細胞の創出を目的とする。 まず、分子イメージングを基にhCD19 CAR-T細胞の抗原認識と活性化、がん細胞傷害活性の分子メカニズムを解明する。そしてその結果からTCR下流の細胞内シグナル伝達分子を導入したCAR-T細胞キメラ受容体を作製し、より強力ながん細胞傷害活性を持ち、一方で傷害活性の調節が容易であり、かつ安全な細胞治療が期待できる新規CAR-T細胞の開発基盤を作る。研究計画の方向性として、既存のhCD19 CAR-T細胞の一分子イメージング実験系の構築、アダプター分子を導入した新規CAR-T細胞受容体のデザインと創出、E3ユビキチンリガーゼを導入した活性化調節機構のあるCAR-T細胞受容体のデザインと創出、NSGヒト化マウスを用いた新規CD19 CAR-T細胞のin vivo細胞傷害活性の検証、を予定している。さらにhCD5 CAR-T細胞およびHLA-A2とがんペプチド抗原を認識するTCR-T細胞の分子イメージングの実験系を構築し、それぞれのCAR/TCR-T細胞の細胞殺傷効果をCAR/TCRの1分子イメージング解析によって評価し、より効果的なCAR/TCR-T作成の分子基盤を創出する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
hCD19 CAR-T細胞の抗原認識・活性化・がん細胞傷害活性の分子メカニズムを解明するためのイメージングシステム:抗原提示平面脂質二重膜(プレイナーメンブレン)を構築した。hCD19 CAR-T細胞がhCD19発現標的がん細胞とが接着する面、いわゆる免疫シナプス面を共焦点レーザー顕微鏡にて3-D再構した際に観察されたCARマイクロクラスターが、マウスのプライマリーCD8+ T細胞およびマウスCD4 TCR-AND、マウスCD8 TCR-OT-Iハイブリドーマとプレイナーメンブレンとの接着面にも可視化された。その際にCARのみならず自己抗原を提示しているMHC分子とCAR-T細胞に発現している内在性TCRが結合することで、その内在性TCRがマイクロクラスターとして凝集する現象を発見し、CARと内在性TCRとのクロストークの可能性とそれによるCAR-T細胞の活性化惹起に関する分子機構を見出した。これは自己ペプチドに反応するTCRを明確に示した最初の実験と考えている。また、上記分子イメージングによってCARマイクロクラスターにもTCR/CD3下流で機能しTCRとMHC抗原ペプチドとの結合によりTCRマイクロクラスターに会合してくるシグナル伝達分子およびチロシンリン酸化分子の一過性のリクルートを明らかとなり、CARを構成しているCD3zeta鎖とCD28細胞内ドメインがTCRマイクロクラスターと同等のシグナルソーム形成に寄与することを証明した。これらの研究は、ベイラー医科大学Brenner Malcolm博士と議論を重ねながら進めている。また、超解像顕微鏡ユニットN-SIM TIRFMを用いて、CARの1分子イメージングを行った。その結果、TCR/CD3の初期のリン酸化に重要なLckがCARマイクロクラスターとインターラクションしている現象を可視化することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
新規CAR-T細胞受容体に会合するシグナル伝達分子の検証:アダプター分子として用いたa)SLP-76、b)LAT、c)CARMA-1のさらに下流のシグナル伝達分子が、それぞれの分子やそのドメインに対応してどの程度増幅されているか、1)生化学的方法、2)イメージングによるクラスター形成の増強、の二方向から検証する。 SLP-76の導入によるCAR-T細胞受容体のクラスタリング増幅効果の検証: SLP-76の下流のシグナル伝達分子でもあり受容体のクラスタリングにも寄与するアクチン重合関連分子WASP、ADAP、Arp2/3、アクチンを指標として、Inside-outシグナルの増強を判定すると共に、ノックダウン細胞を用いてそのInside-outシグナルの減退を確認する。 E3ユビキチンリガーゼCbl-bを応用したオン・オフ調節が可能なCAR-T細胞受容体の作製:インタラクトームとして多様な結合分子を持つCbl-bの調節領域をCAR-T細胞受容体に導入し、Cbl-bとの結合が示されているT細胞シグナル伝達分子:キナーゼZap70、Grb2、Nck、Vav1、イノシトールリン酸化酵素PI3K、アダプター分子CIN85を指標としてCbl-bシグナルソームの形成を評価する。 hCD19-CARとhCD5-CARのシグナルソーム形成の検証:臨床的にもhCD5-CARに比較して抗腫瘍効果の高いhCD19の分子メカニズムをシグナルソームの差違から明らかにする。hCD5-CARの分子イメージングシステムをhCD19-CARと同様に樹立し、hCD5-CARにリクルートする細胞内シグナル伝達分子Zap70、SLP-76、LAT、PI3K、PKCθの挙動を観察する。
|