研究課題/領域番号 |
17H03602
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研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
永瀬 浩喜 千葉県がんセンター(研究所), がん遺伝創薬研究室, 研究所長 (90322073)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分子標的治療 / アルキル化剤 / がん関連遺伝子 / DNA結合化合物 / がん |
研究実績の概要 |
新規薬剤候補であるKRAS標的、免疫チェックポイント阻害抗がん化合物についての非臨床試験は、実験動物における肝逸脱酵素ASTやALTの上昇が認められ、この解決のため、数理解析によって副作用予測ができないかを培養細胞における発現解析データの収集とゲノム結合部位を同定することで予測できないかを試みた。その結果、予測が可能であり、同予測が実験動物で確認できることを証明し、PLoS One誌に 14(4):e0215247 2019として報告した。さらにその予測プログラムも別途J. Open Source Softw誌に 4(37)1423, 2019として報告した。この予測に基づき他の配列認識での化合物の合成を試みることを検討することが可能となった。さらに薬物動態の変更を試みることで薬剤の肝臓移行を減少させることや腫瘍集積性を高めることを試み、カチオン等を導入した構造変換したデリバティブの合成を試み、検討を継続している。腫瘍集積性に関する解析結果の一部は、Bioorg Med Chem 誌に19;26(9):2337-44 2018として報告した。他のKRAS遺伝子変異に対する化合物は、一部合成済みであるが肝毒性の問題が解決することを待って検討することとした。免疫チェックポイント阻害剤は、国際特許移行を開始し、正常免疫マウスでコンセプトを検証するためマウスPd-1、Pd-l1、Ctla4遺伝子と複数の遺伝子を標的とした化合物の合成に成功し、マウスにおいても同複数遺伝子の発現抑制を確認することができた。現在担癌マウスでの効果判定を行うため、準備を整えている。また複数の増幅遺伝子を標的にしたMYCN標的化合物についてはCancer Research誌に 79(4):830-40, 2019として報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床応用を試みたKRAS標的、免疫チェックポイント阻害抗がん化合物については、複数の製薬企業との共同研究を行うことができる段階まで進められ、共同研究を行ったが、残念ながら既存薬より優れた効果が得られなかったことや副作用が非臨床試験の段階で指摘されたことでヒトでの臨床試験は当該化合物では見送られることとなった。しかし、研究の方向性が間違っていないことが製薬大手等からも認められたことは評価できる。さらに問題点の解決方法を基礎的研究で解決できる糸口がつかめ始め、次年度の研究に繋げられている点も評価でき、それらの解決手段に関しての研究成果を英文査読誌に3報論文として報告出来た。さらに、CRISPR-Cas9システムでは確認されていた二本鎖DNA切断を加えることで繰り返し配列の繰り返し数を減少させることが出来る現象を我々の進化型抗がん分子標的アルキル化剤を用いることでも複数のがん細胞や担癌マウス腫瘍で再現できたことは、非常に重要な成果であり、癌研究の権威あるCancer Research誌に報告できた。様々ながんにおいてがん遺伝子の増幅が頻繁に認められており、我々のアプローチを用いることで新たな癌治療薬開発の道が開けるのではないかと確信を得ることが出来たことは高く評価できる。これらのことから現在の進捗状況はおおむね順調といってよいと考えている
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今後の研究の推進方策 |
臨床応用に向けて、非臨床で確証を得ていくことが重要である。現在までに確立した副作用の予測方法や化合物の薬物動態の変更技術を用いてさらに最適な化合物の合成を計ることを進め、より進化したKRASおよび免疫チェックポイントを標的にした抗がん分子標的アルキル化剤の創薬開発を行う。そのうえでまず基礎的な研究を進め、予測プログラムをさらに堅固なものとし、最適な配列認識抗がん化合物の合成を数理解析に基づき行う。さらに薬物動態についても同時に予測し、最適な腫瘍集積性と肝臓及び腎臓細胞の負担を減らすことが出来る薬剤候補の合成を進め、そのうえで非臨床を進め、将来的な臨床試験に結び付けることが出来る進化型抗がん分子標的アルキル化剤の開発プラットフォームの構築を目指して進めていきたい。 これらの知見に基づき、遺伝子増幅を含む様々なゲノム標的、複数ゲノム標的化合物の合成を試み、一日も早くがんで苦しむ患者家族に新たな治療法が届けられるよう研究を推進していく方針である。
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