研究課題/領域番号 |
17H03603
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
増田 万里 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 主任研究員 (70435717)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大腸がん / Wnt シグナル / TCF4/β-catenin 転写複合体 / がん幹細胞 / 分子標的治療薬 |
研究実績の概要 |
がんの治療抵抗性の獲得に、「がん幹細胞(cancer stem cell)」の関与が考えられている。がん幹細胞は薬剤排出能、自己複製能、及び高い造腫瘍性を持つため、治療後に少数でも残存すると腫瘍を再構築し、再発の原因となると考えられている。よって、がん幹細胞を標的とする新規治療薬の開発が期待されている。大腸がんの90%以上にAPC遺伝子等のWntシグナル経路の遺伝子に変異があるため、同経路が恒常的に活性化し、がん幹細胞の発生に繋がると考えられている。我々はAPC の下流でWnt シグナルの実行因子として働くTCF4/β-catenin 転写複合体に着目し、転写因子TCF4 とタンパク質間相互作用する分子としてTNIK キナーゼを同定し、既にTNIK阻害薬NCB-0846を開発している。更に、免疫沈降法と質量分析を用いたプロテオーム解析から、大腸がん細胞におけるTCF4/β-catenin 転写複合体の分子はTNIK 以外にも存在する(70 個の候補分子)ことを明ら かにしている。TCF4/β-catenin 転写複合体の制御の全貌を解明することは、Wnt シグナルに強く依存する発がんやがん幹細胞の維持に関わる分子機構の解明及び、有効な大腸がんの治療標的の同定に繋がると考え本研究の着想に至った。本研究課題では、1)TCF4/β-catenin 転写複合体においてTCF4 と相互作用し転写活性及びWnt シグナルを制御 する分子を同定し大腸がん治療標的を見出し、2)大腸がん治療標的としての妥当性・安全性について検討評価を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、TCF4/β-catenin 転写複合体に含まれる70 個の候補分子のsiRNA ライブラリーを用いてWnt シグナル抑制タンパクの探索を行い、得られた候補分子について相互作用の検証を行うことを目標としていた。1次スクリーニングとしては、Wnt標的遺伝子であるMYC及びAXINの発現定量を行った。更に2次スクリーニングとし、3次元培養下でWnt シグナルの活性をGreen Fluorescence Protein (GFP)の蛍光強度で定量化できる独自に開発したWASA (Wnt signaling Activity in Spheroid Assay)法を用いてスクリーニング行いデータを取得した。。これらにスクリーニングによりWnt シグナル抑制効果を持つタンパク候補が複数検出され、現在、免疫沈降ウエスタン法によりTCF4との相互作用の確認を検討している。よって、ほぼ当初の計画通り、順調に研究は進行している。しかしながら、ポジティブコントロールのβ-cateninのsiRNAに匹敵する抑制効果を持つ分子は見つかっていない。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、70 個の候補分子より複数同定されたWnt シグナル抑制タンパクについて、TCF4との相互作用を免疫沈降ウエスタン法及び共焦点顕微鏡によって確認し、薬剤標的となる分子の選択を行う。標的分子候補がある程度絞られた段階で、siRNA或いはshRNAを用いて候補分子をノックダウンした大腸がん細胞においてWntターゲット遺伝子の発現抑制を確認するとともに、細胞増殖抑制効果の検討も行う。次に、がん幹細胞性への影響を検討する。具体的には、大腸がん幹細胞の細胞表面マーカーであるCD133やCD44の発現への影響や、アセトアルデヒド脱水素酵素活性(ALDH)活性及び薬剤排出能の指標となるサイドポピュレーションをフローサイトメトリーを用いて調べ、限界希釈法によるスフェア形成能の検討を行う。その結果、がん幹細胞抑制効果が認められた分子について、マウスにおける造腫瘍能への影響を確認し、標的としての妥当性を判断する。治療標的としての妥当性が検証された分子について、ノックアウトマウスの作製を開始する。
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