がんの治療抵抗性の獲得に「がん幹細胞(cancer stem cell)」の関与が提唱されており、高い造腫瘍性を持つがん幹細胞が化学療法後に残存すると腫瘍を再構築し、再発に繋がると考えられている。よって、がん幹細胞を標的とする新規治療薬の開発が期待されている。我々は、がん幹細胞の維持に関わるWntシグナルの実行因子としてTCF4/β-catenin 転写複合体に着目し、転写因子TCF4 と相互作用するTNIK キナーゼを同定し、その阻害薬NCB-0846を開発している。更に、質量分析を用いた大規模プロテオーム解析から、大腸がん細胞におけるTCF4/β-catenin 転写複合体にはTNIK以外にも約70個のタンパク質が含まれることを明らかにしている。本研究課題では、これらの候補分子のsiRNA ライブラリーを用いて、Wnt標的遺伝子の発現定量、及び3次元培養下でWnt シグナル活性を定量化する独自に開発したWASA (Wnt signaling Activity in Spheroid Assay)法でスクリーニング行い、Wnt シグナル制御作用を持つ治療標的候補分子を複数同定した。しかし、これらの分子は単独ではβ-cateninのノックダウンに匹敵するWnt抑制効果は認められなかった。そこで、これら分子のノックダウンによる細胞増殖抑制効果を検討し、大腸がんの治療標的候補分子の絞り込みを行った。興味深いことに、候補分子にはDNA二重鎖切断のDNA修復機序に関わる分子及び転写活性を制御する相分離に関与するが分子が複数含まれていた。これらの分子とTCF4及びβ-catenin には共局在が認められ、転写複合体によるWnt標的遺伝子の転写活性にはDNA修復機序や相分離の関与が示唆された。現在、これらの分子群がWntシグナル活性化を惹起するメカニズムを検討し、TCF4/β-catenin 転写複合体における機能・全体像への役割についても解析を続けている。
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