研究課題/領域番号 |
17H03604
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中川 真一 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (50324679)
|
研究分担者 |
横井 佐織 北海道大学, 薬学研究院, 助教 (10772048)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ノンコーディングRNA / 4.5SH / ES細胞 / 未分化状態 |
研究実績の概要 |
メダカの脳でタンパク質と強固な複合体を形成しているlncRNAをUPA-Seq法 (Komatsu et al., RNA 2018) を用いて同定し、その変異体を作製した。その結果、メダカの行動に変化が見られることが明らかとなった。 また、昨年度までに齧歯類マウス目特異的なノンコーディングRNAである4.5SHクラスターを欠損するノックアウトマウスが胎生致死になることが明らかになっていたので、本年度はその表現型解析も集中的に行った。4.5SHのノックアウトマウスがいつ致死となるかを明らかにするために胎生期を遡って遺伝子型を調べたところ、PCRによってgenotypingが可能な8.5日目胚以降にホモ個体は得られなかった。そこで、胎生6.5日目胚の標準切片を作製して解析を行ったところ、脱落膜の約1/4において、その内部に正常胚とは大きく形態が異なる細胞塊を認めた。これらの細胞塊は4.5SHを発現しておらず、確かにこれらが4.5SHのノックアウト胚であることが確認できた。 次に、4.5SHノックアウト胚でどのような遺伝子発現異常が起きているかを調べるために、RNA-Seqを用いた発現プロファイルの解析を試みた。初期胚から十分な量のRNAを得ることは困難であると考え、4.5SHのヘテロ個体の人工受精で得られた胚盤胞からES細胞の樹立を行った。その結果、4.5SHノックアウトマウス由来のES細胞を2系統(オス1系統、メス1系統)得ることができた。これらのES細胞は、ESの未分化状態を維持するために添加していた2i試薬を除くと急速に増殖能が低下して細胞外基質に強く接着し、未分化マーカーであるNanogの発現の低下が見られた。従って、4.5SHは未分化な胚性幹細胞の増殖の促進並びに未分化状態の維持に関わっていることが予想された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
タンパク質と強固な複合体を形成するlncRNAを同定する手法であるUPA-Seq法を用いて、メダカの行動を変化させるlncRNAを同定することができた。この結果は、UPA-Seq法によって重要な生理機能を持つlncRNAを同定することができることを示しており、順調に計画した研究が進展している。 4.5SHはマウス目特異的なノンコーディングRNAであるが、その機能はこれまで全く知られてこなかった。4.5SHノックアウトマウスが着床直後に致死になることが明らかとなり、この種特異的なノンコーディングRNAが非常に重要な生理機能を有していることが初めて明らかとなった。さらに、4.5SHノックアウトマウスの胚盤胞由来のES細胞の樹立にも成功し、2i試薬の非存在下でES細胞の増殖が著しく抑制され、さらに未分化状態の維持もできなくなっていることが明らかとなった。これらの発見は、ES細胞の増殖能や未分化状態の維持に4.5SHの機能が必要であることを強く示唆しており、マウスのES細胞の維持にはこれまで知られていなかった新たな分子制御機構が必要であることが予想された。これらの結果は研究計画当初には全く予想されていなかった成果である。
|
今後の研究の推進方策 |
4.5SHを欠損するES細胞が未分化状態を保つことができない理由を明らかにするために、RNA-Seqを用いた遺伝子発現プロファイルの解析を行う。これまで我々は、レトロトランスポゾンSINE B1と高い相同性を示す核内ノンコーディングRNAである4.5SHが、3'の非翻訳領域にSINE B1がアンチセンス方向に挿入されたmRNAの核外輸送を阻害しているというモデルを提唱してきた。そこで、野生型由来のES細胞と4.5SHノックアウトマウス由来のES細胞を細胞質と核に分画し、それぞれの分画から得られたRNAを用いたRNA-Seq解析も合わせて行う。さらに、4.5SHが細胞内でどのような複合体を形成しているのかを明らかにするために、4.5SHにMS2タグ配列を挿入した細胞を作製し、MS2コートタンパク質を用いた免疫沈降によって複合体の精製を行う。また、4.5SHが一過的に相互作用する標的を同定するために、MS2コートタンパク質をビオチン化酵素に融合させたタンパク質を発現させ、ビオチン化された周囲のタンパク質や核酸を精製してその構成成分の解析を行う。これらの実験を通して、4.5SHがどのようにしてES細胞の増殖並びに未分化状態の維持を制御しているのかを明らかにしてゆく。 また、昨年度までの研究で、行動に変化が見られる新規lncRNA遺伝子のメダカの変異体を得ている。今年度はその遺伝子の内在の発現パターンを詳細に解析するとともに、生体メダカの脳よりRNAを抽出してRNA-Seq解析を行い、どのような遺伝子発現の変化によって行動パターンの変化が引き起こされているのかを明らかにする。また、変異体メダカを、そのlncRNA遺伝子を発現するトランスジェニックラインと掛け合わせてレスキュー実験を行い、実際にその遺伝子の発現が行動変化の原因となっているか検討を行う。
|