研究課題/領域番号 |
17H03614
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神吉 康晴 東京大学, アイソトープ総合センター, 助教 (00534869)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 疾患エピゲノミクス / VEGF / ヒストン修飾 / 血管生物学 / 構造生物学 / クライオ電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究は、申請者が見出した新たなヒストン修飾変化に対する生物学的意義を解明し、その修飾が形成される分子機構、更にその立体構造を最新のクライオ電子顕微鏡技術を用いた単粒子解析で決定する。申請者はこれまでに、血管内皮細胞を用いて次世代シークエンサーを用いた網羅解析から、血管内皮細胞活性化に寄与する転写因子、エピゲノム修飾を報告しており(Kanki Y et al 2011 MCB, EMBO Jなど)、更に、最近の研究では血管内皮細胞活性時に形成される独自のヒストン修飾の組み合わせを同定している。そこで、本研究では、遺伝子座特異的な複合体の同定からその立体構造解析を行うことで、エピゲノム複合体の、生物学的のみならず、生物物理学的な本質を捉え、将来の創薬の足がかりとなるデータを得ることが目的である。 初年度である平成29年度は、H3K4me3修飾に関与していると考えられているtirthorax (COMPASS)複合体に関する解析を行った。ヒトではSET1A-1B複合体、MLL1-2複合体、MLL3-4複合体の3種類が知られている。この中で血管新生に寄与しているものを決定するために、siRNAを用いた網羅的ノックダウン解析を行い、転写複合体の一部を同定した。 血管内皮増殖因子(VEGF)は、その阻害剤が抗がん剤として臨床応用されているが、今回見出したエピジェネティクス複合体は、従来にないVEGFシグナルパスウェイであり、臨床的意義が高いと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の目標は、血管新生時のEGR3の第1イントロンに集積している複合体を同定すること、更にその裏付けとなる基礎データを取得することであった。これまでのデータで、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に血管内皮増殖因子(VEGF)を添加すると、15分以内にEGR3遺伝子座のH3K4がトリメチル化されることが分かっている。 この現象が、血管新生に関与しているとの仮説を立て、メチル基転移酵素の同定に挑んだ。ヒトではH3K4をトリメチル化する酵素は、SET1A/1B複合体、MLL1/2複合体、MLL3/4複合体の3種類が知られている。siRNAを用いた網羅的解析により、MLL3/4とMLL2がEGR3の転写誘導を有意に抑制することが分かった。 次にMLL3/4複合体の中のコンポーネントの中で重要な因子を決めるために、同様なsiRNAを用いた実験を行い、PTIPという因子を同定した。この因子をノックダウンすると、in vitro, in vivo共にVEGF環境下での血管新生を抑制する結果となった。 このように、平成29年度は、血管新生に必要なエピジェネティクス複合体の一部を同定し、その機能アッセイも行っており、概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、H3K4をトリメチル化すると言われている酵素複合体(ヒトではCOMPASS複合体と名付けられている)の全貌解明に挑む。刺激前の状態と、特に転写が活性化している刺激後15分、転写の終結する刺激後60分の状態において、enChIP解析を行う。手法としては、EGR3の第1イントロンにガイドRNAを設計し、DNA切断酵素活性を無くしたdCas9-FLAGを用いて、遺伝子座特異的なタンパク質を免疫沈降する。これを質量分析器で解析することで、転写複合体の時系列変化を同定する。 真核生物の転写は近年、スプライシングと共役しているという仮説が濃厚であり、本実験系では、転写制御因子のみならず、スプライシング因子も多数同定することも期待できる。また、転写の終結に関しては分かっていない点も多いが、本実験系では、刺激後60分は完全に転写がOFFであり、その時点での複合体解析も可能である。 平成30年度後半から平成31年度に向けては、同定した複合体の構造解析をクライオ電子顕微鏡を用いて行う予定である。
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