研究実績の概要 |
本研究の目的は、ヒト性染色体構造異常の発症メカニズムを解明し、これらのゲノム異常により臨床症状が生じる機序を明らかにすることである。本研究期間における主たる研究成果は下記の通りである。(1) 多焦点性ゲノム破砕に起因する染色体複雑構造異常患者を見出した。その構造解析の結果、この症例では精子形成過程に限局して5つの染色体にそれぞれ独立した大規模ゲノム再編成が生じたことが明らかとなった。このゲノム再編成の主体は、マイクロホモロジーを介したDNA複製エラーであることが見出された。この成績は、ヒト配偶子形成過程においてこれまで知られていなかった一過性ゲノム脆弱性が存在することを示唆する。(2) 性染色体異常症患者のDNAメチル化解析に基づき、性染色体擬常染色体領域内にSHOX遺伝子の新たな遠位エンハンサーが存在する可能性があること、またSHOXエンハンサー欠失患者のSHOX発現低下はSHOX周辺CpG領域のDNAメチル化の破綻を伴わないことを明確とした。(3) 15番染色体テトラソミー患者の解析に基づき、不完全型トリソミーレスキューによって生じる微小核でのクロモスリプシスが、このような複雑ゲノム再編成を生じることを提唱した。(4) 低相同性配列を介したY染色体と常染色体間の不均衡型転座が、45,X核型患者における精巣性性分化疾患を招くことを明らかとした。(5) 精子15番染色体長腕の非アリル間相同組み換えの頻度に季節間差異があることから、これらのゲノム異常の発生に季節変動性環境因子が関与する可能性を見出した。 これらの結果は、英文論文、学会発表、講演として公開した。
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