研究課題/領域番号 |
17H03619
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
須山 幹太 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (70452365)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ラット / ターゲットキャプチャ / エクソーム / 疾患モデル動物 |
研究実績の概要 |
本課題は、ナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」が保有する様々な疾患モデルラットを対象にした網羅的エクソーム解析から、それらの疾患原因変異を同定することを目的とし、原因遺伝子に基づく発症機序の解明を目指す。その際の解析手法として、エクソン領域以外に脊椎動物のゲノムで高度に保存した部位もターゲットとしたすでに開発済みの「拡張エクソーム解析」を適用し、遺伝子発現制御領域での変異も検出可能とする。 本年度は、前年度得られた疾患モデルラットのシーケンシングデータの解析を進めたが、現在のところ、疾患原因候補の検出には至っていない。また、新規系統のターゲットキャプチャのためのライブラリを作成し、シーケンシングのための準備を進めた。このライブラリは、次年度にシーケンシングをし、データ解析を行う予定である。さらに、これまでに得られた拡張エクソームデータから変異情報を集積し、そのデータをもとに、実験動物ラットの系統解析を試みた。ラットにおける系統解析は、これまでは限られた数のマイクロサテライトにより行われていたが、今回、多数のゲノムワイドな変異情報が得られたことから、より精密な系統解析が可能になった。特に、ラットのゲノム中には、ゲノムワイドな変異をもとに作成した系統樹のトポロジーと一致しないdiscordantな変異を呈するサイトが多数存在することを明らかにした。これは祖先系統で存在した多型(ancestral polymorphism)が、ランダムに固定したためと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初予定していた、ターゲットキャプチャの対象とするラットを選定し、シーケンシングのためのライブラリを作成した。さらに、これまでに得られた変異情報を集積した。さらに、それらの情報を用いた系統解析を実施したところ、ゲノム全体から得られた系統樹の系統関係と一致しないdiscordantな変異サイトがゲノム中に多数存在することがわかった。それらのゲノム上での分布を調べたところ、ある特定の領域に集積していることを見出した。それらの領域の多くは免疫系の遺伝子座であることが多く、もともと祖先系統に存在した多くのハプロタイプが、現在の系統確立の過程でランダムに固定したものと新たに解釈できることを示した。この解析で得られた情報は、より精度の高い系統解析に有用なものである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、当初計画に基づき、前年度に引き続き拡張エクソーム解析を種々の疾患モデルラット系統に適用する。また、拡張エクソーム解析結果の蓄積に伴い、得られた多型情報をデータベース化する。これにより、コモンバリアントとレアバリアントの区別がつくようになり、レアバリアントの効率的な絞り込みが可能になる。また、得られたデータを順次公共データベースに登録し、研究者コミュニティーの研究推進に役立てる。疾患原因の候補変異が得られたものについては、その発症メカニズムをモデル化する。その傍証として遺伝子発現情報の取得が可能であれば、それを活用する。さらに、得られた結果の論文化を進める。
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