近年大きな問題となっている抗生物質耐性菌の出現を抑制するためには、その進化ダイナミクスを理解し、制御する必要がある。そこで本研究では、進化実験で得られた様々な抗生物質耐性の大腸菌株について、その表現型と遺伝子型を定量したデータに基づき、その耐性獲得への進化ダイナミクスを制御する手法を考案する。単独の抗生物質に対する耐性菌の表現型・遺伝子型データから、複数の抗生物質を同時に添加したときの進化ダイナミクスを予測し、進化実験を行うことによって検証する。これまでに、申請者が開発したラボオートメーションを用いた全自動の進化実験システムを用いて得られた、酸・アルカリ・界面活性剤・抗生物質など95種類のストレスに対する耐性大腸菌について、一つのストレスに対する耐性獲得が、他の様々なストレスへの耐性をどのように変化させるかを定量している。さらに、1遺伝子破壊株ライブラリを親株とした進化実験を行い、遺伝子破壊の進化ダイナミクスに対する影響を定量した。それらのデータに基づき、複数のストレス誘引物質を適切な濃度比率で同時添加し、フィードバック制御を加えることにより、目的の耐性プロファイルを持つ菌株を獲得する進化実験のアルゴリズムを構築した。このアルゴリズムを用い、2種類の抗生物質(クロラムフェニコールとアミカシン)の添加濃度を動的に変化させる進化実験を行ったところ、単独の薬剤を展開した場合には出現しない耐性パターンを持つ大腸菌を創出することに成功をした。この進化実験の制御技術は、目的とする表現型の創出や、その出現抑制の手法を構築するなど、様々な応用を期待することが出来る。
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