研究課題/領域番号 |
17H03624
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村山 美穂 京都大学, 野生動物研究センター, 教授 (60293552)
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研究分担者 |
中嶋 信美 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 室長 (20212087)
福田 智一 岩手大学, 理工学部, 教授 (40321640)
大沼 学 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 主任研究員 (50442695)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大型猛禽類 / ゲノムリシーケンス / 繁殖 / 培養細胞 / 野生動物保全 |
研究実績の概要 |
ニホンイヌワシは、国内の推定個体数がわずか500羽と、絶滅が危惧されており、繁殖成績も芳しくない。本研究では、同じく絶滅の危機に陥ったものの、現在は個体数が回復しつつある北ヨーロッパの亜種の調査グループと国際連携し、イヌワシで唯一公開されている北米の亜種のゲノム配列をリファレンスとして、ゲノムリシーケンスを行い、生態学的な差異や、病原体に対する感受性の差異と、ゲノム配列の差異を比較して、関与する遺伝子の機能を解明し、ニホンイヌワシの亜種の特性を明らかにする。さらに、無限分裂細胞株を樹立し、ゲノム解析で明らかになった生理学的機能差を細胞レベルで検証する。加えて、個体ごとの遺伝子型の情報により、飼育や繁殖への貢献を目指す。 本年度は、培養細胞の整備と活用、ゲノムリシーケンス、生態・獣医学的調査、機能遺伝子の検出、を行い、以下の成果が得られた。 1)ニホンイヌワシ由来の培養細胞を作製し、遺伝子導入によってiPS化を試みた。2)ニホンイヌワシのゲノムリシーケンスを行い、スコットランドの亜種、北米の亜種と比較した。亜種間でのゲノム配列の相違度からニホンイヌワシは系統的に北米の亜種に近縁であった。飼育下個体の遺伝的多様性にもとづき、個体群の存続をシミュレートした結果、繁殖つがいの増加と野生からの導入が存続に必要であることがわかり、環境省や飼育施設に情報を提供した。 3)スコットランドのイヌワシの研究者3名を招聘し、日本の生態学、獣医学の研究者を交えつくばと盛岡でセミナーと観察会を実施し、情報交換した。インフルエンザウイルスの増殖を抑制するMxタンパク質をコードする遺伝子(Mx遺伝子)のクローニングを、イヌワシの培養細胞およびゲノム情報を活用して実施した。 4)免疫にかかわるMHC遺伝子、つがい形成に関わるバソトシン受容体遺伝子について、亜種間および個体間の多様性を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、1)培養細胞の整備と活用、2)ゲノムリシーケンス、3)生態・獣医学的調査、4)機能遺伝子の検出を行った。1)ニホンイヌワシイヌワシからの初代培養細胞を入手し、培養の条件を最適化し、Kav-1培地を使用することで最も細胞増殖が良いことを明らかにした。さらにiPS化を試みた。加えて絶滅危惧種のヤンバルクイナやアカウミガメの細胞を効率的に増殖させる方法を見出し、原著論文として発表した。 2)鳥類15種のゲノムデータをDNAデータバンクに登録し、一部は公開済みである。ORFを確定するため鳥類13種のRNAseq解析をおこない、データを解析中である。またニホンイヌワシ3個体のゲノムリシーケンスを行い、スコットランド、北米の亜種と比較した。亜種間でのゲノム配列の相違度は、ニホンイヌワシと北米の亜種で0.145%、ニホンイヌワシと英国の亜種間では0.15%であり、ニホンイヌワシは系統的に北米の亜種に近縁であることが示された。飼育下個体の遺伝的多様性にもとづいて、多様な条件で個体群の存続をシミュレートした結果、繁殖つがいの増加と野生からの導入が存続に必要であることがわかり、環境省や飼育施設に情報を提供した。 3)スコットランドのイヌワシの研究者を招聘し、日本の生態学、獣医学の研究者とともにセミナーと観察会を実施し、情報交換した。インフルエンザウイルスの増殖を抑制するMxタンパク質をコードする遺伝子(Mx遺伝子)のクローニングを、イヌワシの培養細胞およびゲノム情報を活用して実施し全長配列を決定した。 4)機能遺伝子のうち、免疫にかかわるMHC遺伝子、つがい形成に関わるバソトシン受容体遺伝子について、配列情報に基づいてプライマーを設計し、亜種間や個体間の多様性を解析した。以上により、計画は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
培養細胞の整備と活用については、飼育動物園および野外観察者の協力で、生体の羽軸や皮膚、孵化前死亡胚、死亡個体の組織を採取して初期培養を行い、無限分裂を誘導する。iPS化の確認の実験を行う。 ゲノムリシーケンスについては、ゲノム配列の比較から、SNPを検出し、北米、北ヨーロッパ、日本の亜種間で、分岐年代や過去の個体数を推定する。とくに亜種間で変異の多い領域について詳細な比較を行い、生態情報との関連を解析する。 生態・獣医学的調査については、特に深刻な感染症であるトリインフルエンザ、ニューカッスル病、サルモネラ症などの感染状況を、PCR増幅により調査する。今後感染が国内に広がった場合、個体群への深刻な影響が懸念されるウエストナイルウイルスについても遺伝子検査を実施する。 機能遺伝子の検出については、繁殖に関わるメソトシンやアンドロゲンなどのホルモン受容体遺伝子、および他の鳥類で情報のある産卵数や、兄弟殺しに影響する攻撃性の遺伝子に着目して亜種間で比較し、遺伝子変異と繁殖数の関連についても解析する。 国内の研究者とともにスコットランドを訪問して、猛禽類の保全の実態を見学するとともに、セミナーを開催して情報交換を行う。
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