研究課題/領域番号 |
17H03628
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
山田 秀秋 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 西海区水産研究所, 主幹研究員 (10372012)
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研究分担者 |
谷田 巖 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 西海区水産研究所, 研究員 (00783896)
南條 楠土 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 助教 (70725126)
今 孝悦 筑波大学, 生命環境系, 助教 (40626868)
林崎 健一 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (80208636)
渡辺 信 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 准教授 (10396608)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 亜熱帯 / 成育場保全 / 食物網構造 / 安定同位体 / 海草藻場 / マングローブ / 連環 |
研究実績の概要 |
台風接近により風速が20m/sを超える事態が3回生じたが、亜熱帯藻場・マングローブ域の生物群集への影響は、部分的かつ一時的なものに限られた。ただし、台風接近から1ヶ月後に、リュウキュウスガモの雄花が高密度で開花していたことから、台風撹乱によって有性生殖が促進されたことも考えられる。 除草剤や船底塗料剤として用いられるジウロンの濃度を石垣島および西表島の低潮線付近で測定した結果、船の係留地近傍で濃度が高かった。炭素・窒素安定同位体比分析により、藻場で同所的に出現するクロナマコとニセクロナマコは、食い分けによって共存を可能にしていることが示唆された ドローンによる空撮と被度調査から、八重山地方に沖縄県最大規模のコアマモ藻場があることを確認した。コアマモは、冬季に葉が伸長してバイオマスが増大し開花・結実した。地点間で形態等を比較すると、ラグーン状の窪地内のコアマモは、シュート密度は低いものの、シュート長が長く地上部バイオマスも高かった。波浪の影響の強弱によって、コアマモの形態が変化する可能性が示唆された。また、コアマモ群落内は、ベニアマモ群落よりも小型無脊椎動物の分布密度が高いことを確認した。 マングローブ域において、陸源負荷の程度の異なる定点間で物理環境要因および底生動物群集構造を比較したところ、陸源負荷の大きい地点ではマングローブリター量および堆積有機物量が多く、それらに依存するタママキ(二枚貝)等が多いことが判明した。魚類の回遊や摂食生態に関する調査では、ニセクロホシフエダイ等3魚種の稚魚が、藻場域およびマングローブ域の両生態系から採集された。これらの回遊魚は、生息域に分布する甲殻類を主に摂餌しており、炭素安定同位体比も生息域の生産者に近い値を示した。このため、回遊魚の炭素安定同位体比は、個生態系間の連環促進実態の推定に有用であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海草やサンゴの生育に影響を及ぼす可能性があるジウロンの濃度分析に着手した。低緯度域では海草類の有性生殖についての知見は限られているが、リュウキュウスガモおよびコアマモの開花・結実に関する情報が得られた。コアマモの分布域は、閉鎖的で栄養塩濃度が高い潮間帯に限られており、陸源負荷を軽減するうえで重要な役割を担っていると考えられた。コアマモは、沖縄県で絶滅危惧Ⅱ類に指定されているが、南方型のコアマモに関する知見は非常に乏しいことから、本研究の知見は、亜熱帯域の沿岸生態系の保全に大きく寄与するものである。また、ナマコ類は種ならびに生息地によって餌料が異なることで、多様な種の共存を可能としていることが示唆された。 マングローブ域は富栄養化への頑健性が高いとされるが、農業排水の流入によって、ベントス群集組成の微細生息場スケールでの異質性が低下する傾向が認められた。このことは、陸源負荷が生態系レジリエンスの低下を引き起こす可能性を示唆する。さらに、藻場域とマングローブ域の両水域間を回遊する稚魚類が多数分布し、それらには漁獲対象魚種も含まれていた。 以上のことから、本年度も大規模な台風撹乱は生じなかったものの、マングローブ・海草藻場複合生態系の構成種が有する生態学的役割や低次生産構造に関する知見を順調に蓄積することができた。
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今後の研究の推進方策 |
低次生産構造に関する調査は、沖縄県八重山地方(名蔵湾等)のマングローブ域ならびに藻場域において、台風撹乱が生じる前の静穏時、台風撹乱直後、および撹乱からの回復期に行う。マングローブ域では、コドラート調査などによりベントス類の出現様式を調べる。藻場域では、撹乱に対して脆弱と考えられるコアマモの分布構造や、ナマコ類の生態学的役割などを調べるほか、無人航空機(ドローン)を用いて広域画像撮影を行う。各定点においては、水温・栄養塩濃度・クロロフィル量等を測定するほか、除草剤や船底塗料剤として用いられるジウロンが低次生産構造に及ぼす影響を評価するための調査を行う。マングローブ域ならびに藻場域において、魚類を採集し、消化管内容物を分析する。得られた生物試料の一部は、食物網構造等の解析のために炭素・窒素安定同位体比分析に供する。 これらのデータから、陸源負荷が低次生産構造に及ぼす影響を解析すると共に、魚類の捕食活動等による個生態系間の連環についての情報を収集する。昨年度までに得られた静穏時のデータとの比較等から、台風撹乱に伴う生態系構造の変化や生態系レジリエンスの仕組みを調べる。
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備考 |
発表者名:南條楠土・清水雅史・冨永翔太・谷田 巖・今 孝悦・山田秀秋、発表標題:亜熱帯海草藻場とマングローブ域に生息する魚類を支える餌資源の特定、第31回魚類生態研究会、発表年:2020 発表者名:清水雅史・南條楠土・谷田 巖・今 孝悦・山田秀秋、発表標題:亜熱帯海草藻場に出現する魚類の食性、第31回魚類生態研究会、発表年:2020
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