NEAT1 lncRNAがクロマチン3D構造に影響を与える分子機構の解明を目的に研究を実施した。前年度までにCRISPR-Cas9ゲノム編集によって作成したNEAT1 KO細胞株と野生型細胞を用いたHiC解析によって、複数のクロマチン座位におけるTAD構成やA/Bコンパートメントの変換が検出され、NEAT1がクロマチン複数座位に選択的に作用して、クロマチンの局所的3D構造の決定と活性制御に重要な役割を果たしていることが示唆された。今年度はNEAT1とクロマチンの仲立ちする因子を明らかにすることを目指した。まずNEAT1領域の部分欠失変異体ライブラリーの中から、核内におけるパラスペックルの存在形態に影響を与えている変異体を同定した。この変異体では、パラスペックルが通常隣接する核スペックルという別の非膜性構造体の内部に取り込まれている予想外の表現型を示していた。核スペックルは、RNAポリメラーゼII転写物がスプライシングなどのRNAプロセシング段階に移行する際にRNA上に形成されると考えられており、上記変異体ではパラスペックル周囲のクロマチン環境の変化によって、この2種類の非膜性構造体の存在形態が劇的に変化したことが推測された。このNEAT1領域の部分欠失で生じたパラスペックル構成タンパク質の解析によって、SFPQという転写とRNAプロセシング制御因子が著しく減少していることが検出され、SFPQがパラスペックルと周囲の核内環境形成に重要な役割を果たしていることが示唆された。今後、SFPQが仲立ちするNEAT1領域と標的クロマチン座位を同定することによってパラスペックルによる核内3D構造構築機構が明らかになることが期待される。この他に、HSATIII lncRNAによる核内ストレス体の形成と作用機構についても解析を行い、局所的リン酸化の場としての核内構造体の新機能を発見した。
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