研究課題
我々はヒストンH3K9me2の脱メチル化酵素JMJD1Aが熱産生に関与する機構を解明してきた。本研究では、白色脂肪細胞の褐色化におけるヒストンH3K9メチル化修飾の変化を検討することとし、クロマチン免疫沈降法(ChIP)を実施した。ChIP用サンプルを調整するため、皮下白色脂肪組織由来の細胞株(iscWAT)を誘導剤カクテル(インスリン、甲状腺ホルモン(T3)、IBMX、インドメタシン、デキサメサゾン、ロシグリタゾン)で処理して褐色化を誘導し、経時的に細胞をクロスリンクしてタンパク質とDNAを固定化した。核画分を抽出して脂肪を除去した後、DNAを断片化し、抗H3K9me2抗体を用いて免疫沈降を行った。DNAを分離したうえでqPCR解析を行った結果、Ucp1やCideaといった褐色化関連遺伝子領域におけるH3K9me2修飾レベルが白色脂肪褐色化に伴って低下していた。さらに、JMJD1A抗体を用いたChIP-qPCR解析の結果、iscWATの褐色化に伴って褐色化関連遺伝子領域におけるJMJD1Aのリクルートメントが増加していた。また、褐色化関連遺伝子発現は褐色化に伴って上昇していた。これらの結果から、褐色化関連遺伝子領域にJMJD1AがリクルートされることでH3K9me2の脱メチル化が起こり、それによる遺伝子発現上昇を介して白色脂肪細胞の褐色化が誘導されると考えられた。同様の結果は、マウスでも認められた。詳細には、一週間の寒冷刺激を与えたマウスの皮下白色脂肪においてH3K9me2レベルの低下が認められた。また、慢性寒冷刺激下のJMJD1A欠損マウスにおけるH3K9me2レベルは野生型マウスと比較して高かった。これらのことから、JMJD1Aはマウスの白色脂肪の褐色化においても褐色化関連遺伝子領域のH3K9me2制御を介して遺伝子発現調節に関与することが示された。
2: おおむね順調に進展している
今年度、白色脂肪細胞の褐色化におけるH3K9me2の経時的変化とともにJMJD1Aのリクルートメントの経時的変化を明らかにすることで、H3K9me2の脱メチル化による褐色化関連遺伝子発現制御機構について、細胞およびマウスを用いて解明した。おおむね計画に沿って順調に進展していると評価する。
我々はこれまでに、寒冷急性期にリン酸化を受けたJMJD1Aがクロマチン構造変化を介して遺伝子発現を制御する機構を解明してきた。今後、これまでの研究成果と今年度の成果を基盤にして研究を進める。具体的には、JMJD1Aのリン酸化部位変異体を用いた解析を進め、白色脂肪細胞の褐色化におけるヒストンH3K9me2の脱メチル化にJMJD1Aのリン酸化が与える影響を検討する。その結果、JMJD1Aのリン酸化による寒冷急性期の遺伝子発現制御と寒冷慢性期におけるヒストン修飾書き換え制御からなる二段階制御仮説を検証する。また、JMJD1Aのリン酸化と脱メチル化酵素活性が、熱産生や脂肪細胞の褐色化、エネルギー代謝に与える影響について、細胞レベルおよびマウス個体レベルで検討する。JMJD1Aの遺伝子発現制御機構の詳細に関しては、タンパク質複合体解析やChIP法を用いた解析等を実施してエピゲノム記憶の分子機構の解明を目指す。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
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http://www.imcr.gunma-u.ac.jp
http://epigenetics.imcr.gunma-u.ac.jp/en/