研究課題
エピゲノム酵素による転写の二段階制御仮説を検証するため、皮下白色脂肪組織由来の細胞株(iscWAT)において、内在性のJmjd1a発現をshRNA発現で抑制した細胞にレトロウィルスシステムを用いてJMJD1Aの265番目の非リン酸化変異体(セリン残基のアラニン変異体(S265A))とリン酸化疑似体(セリン残基のアスパラギン酸変異体(S265D))を特異的に強制発現した安定細胞株を構築し、褐色化過程におけるH3K9me2の変化をChIP-qPCR法を用いて検討した。その結果、二段階仮説における第一ステップのJMJD1Aのリン酸化が第二ステップのH3K9me2の脱メチル化に関与することを明らかにした。さらにJMJD1Aの1120番目のヒスチジン残基をチロシンに変異(H1120Y)させると、酵素活性が特異的に阻害されることが知られているため、JMJD1A(S265D/H1120Y)による二重変異体と単一変異体におけるH3K9me2のメチル化状態を比較した。その結果、JMJD1Aによるリン酸化が酵素活性に必須であることが示された。また、JMJD1A(S265D)ノックインマウスでは、インスリン抵抗性の表現型が寒冷条件下に認められたことから、この機構が生理的にも重要であることが示された。これらの結果は、Nature Communication誌に「Histone demethylase 1 JMJD1A coordinates acute and chronic adaptation to cold stress via thermogenic phospho-switch」というタイトルで発表した(Abe et al. Nat. Commun. 2018)。ヒストン修飾パターンの解析においては、ヒストンメチル化修飾を網羅的に解析するための質量分析による新手法としてセミボトムアップ法の構築に挑み、脂肪細胞から調整した精製ヒストンを用いてヒストンH3断片の翻訳後修飾を同定することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
今年度も昨年度から継続してヒストン脱メチル化酵素JMJD1Aを対象とした研究をすすめ、環境刺激に応答して起こるJMJD1Aのリン酸化が複合体形成と標的遺伝子領域へのリクルートメントを惹き起こし、それを基盤としてヒストン脱メチル化が起こされる詳細な機構を解明した。この結果は、エピゲノム酵素による転写の二段階制御機構という新たな概念を提示するものであり、生理的にも重要な機構であることがノックインマウスを用いて示された。この成果は論文の形で広く発表するされたことなどから、順調に進展しているものと評価した。また、新規のヒストン修飾の網羅的解析法の立ち上げについても順調に進んでいるものと評価する。
現在まで、順調に計画が進んでいることから、引き続き予定通り研究を進める。ヒストン修飾パターンの解析においては、立ち上げたセミボトムアップ法を用いてヒストンメチル化修飾を網羅的に解析に取り組み、脂肪細胞分化におけるヒストン翻訳後修飾のコード解読に挑む。また、エピゲノム酵素による転写の二段階制御機構の調節に関わる因子に関する研究を深め、エピゲノム酵素を標的とする新規の生活習慣病治療シーズの提示に繋げたい。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件) 備考 (2件)
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https://www.imcr.gunma-u.ac.jp/
https://epigenetics.imcr.gunma-u.ac.jp/