研究課題
V型ATPaseは、触媒頭部(A3B3複合体)でATPを加水分解し、軸部分の回転エネルギー変換を介してイオンを輸送するナノ分子モーター/イオンポンプである。我々は、腸球菌A3B3複合体の結晶構造を明らかにし、高速原子間力顕微鏡(高速AFM)によりA3B3複合体がATP依存に一方向へ回転運動することを見出した。そこで本研究では、A3B3複合体が一方向に回転運動する分子機構の解明を目的に、各種ヌクレオチド存在下でのA3B3複合体のX線結晶構造解析、生化学的解析、高速AFM観測を遂行する。以下に当該年度の研究成果を記載した。(1)A3B3複合体の重要残基変異体の構造機能解析---昨年度の研究により活性に重要と示唆されたR350K変異体を発現精製し、結晶化およびX線結晶構造解析を行った。得られた構造は野生型と異なり対称構造を形成しており、R350がA3B3複合体の非対称構造形成に重要な役割を担っていることが明らかとなった。(2)A3B3複合体が一方向に回転運動する分子機構モデルの提案--- ATPの結合が律速となる条件では、A3B3複合体の一方向回転運動の頻度が低下していた。また、ATPase活性は回転軸があるV1複合体と比べ、1.5倍に上昇していた。本研究で得られた構造生物学的・生化学的・生物物理学的解析結果のすべてを総括することにより、A3B3複合体の協同的な分子機構のモデルを提案した。(3)V1複合体とA3B3複合体の分子機構モデルの比較---回転軸がないA3B3複合体とV1複合体の分子機構の大枠は同じであるが、回転軸が存在することで加水分解する場所が固定され、正確な一方向回転運動を達成していることが示唆された。回転軸はA3B3複合体の構造変化の中でただ単に回転しているだけでなく、回転分子機構を制御していることが明らかとなった。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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Journal of Biological Chemistry
巻: 294 ページ: 17017~17030
10.1074/jbc.RA119.008947