味覚受容体で唯一構造解析が達成されているメダカT1r2a/T1r3リガンド結合ドメイン(LBD)には、結晶構造中にナトリウムイオンの結合が見られた。そこで、X線結晶構造解析によりこの部位の結合特異性を解析した。その結果、この部位には、カリウムイオンをはじめ他のアルカリ金属イオンも結合できることを明らかにした。さらに蛍光共鳴エネルギー移動測定による同試料の構造変化を解析した結果、アルカリ金属イオンの存在下では、非存在下と比較し、アゴニストであるアミノ酸の結合に伴うT1r2a/T1r3LBDの構造変化が、より低濃度域で起こることを示唆する結果を得た。一方、阻害状態構造取得を目指し、全長受容体の細胞応答解析による阻害物質探索を行ったが、特異的な作用を示す阻害物質は得られなかった。 また、LBDの下流に位置するシステインリッチドメイン(CRD)も含むT1r2a/T1r3細胞外全領域(ECD)について、前年度までに構築した大量発現系を用いて、タンパク質試料調製系を確立した。得られた試料の蛍光分析により、同試料がLBD同様アミノ酸結合能を保持していることを示唆する結果を得た。なお同試料は、発現宿主細胞由来タンパク質と共精製されることが判明したが、精製条件検討の結果、共精製タンパク質を除去し、T1r2a/T1r3ECDのみを単離精製する条件を確立した。この共精製タンパク質を同定した結果、機能未知タンパク質であることが判明し、CRD領域と特異的に相互作用するタンパク質であることが示唆された。 このT1r2a/3ECDについて、研究協力者による分子シミュレーション解析を行った。これまでの生物物理学的解析から、同試料がアミノ酸結合に伴い構造変化することを示す結果を得ていたが、今回のシミュレーション解析の結果、この構造変化の過程に未知の中間的な構造状態が存在することを示唆する結果を得た。
|