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2018 年度 実績報告書

光合成・光化学系II複合体に含まれる酸素発生錯体の混合原子価状態の解明

研究課題

研究課題/領域番号 17H03645
研究機関大阪市立大学

研究代表者

神谷 信夫  大阪市立大学, 複合先端研究機構, 教授 (60152865)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード光化学系II / 光合成 / 水分解酸素発生 / 金属クラスター / 混合原子価状態 / SPring-8
研究実績の概要

現在の地球に棲息する光合成生物の内、水を電子源として酸素を発生しているものは、すべて、水分解・酸素発生触媒としてMn4Caクラスターを内包した光化学系II複合体(PSII)を持っている。Mn4Caクラスターは20~30億年前に出現したらん藻に既に見られ、その後の生物進化の長い歴史を経てもまったく変わっていない。Mn4Caクラスターには、生物界の触媒として唯一生き残ることができた理由が隠されているはずである。本研究では、Mn4Caクラスターの混合原子価状態により、本来「ハードな」金属であるMn原子が混合原子価状態をとることで「ソフトな」特性を獲得して触媒として機能しているとする作業仮説をたて、その検証を目標としている。実際には以下の手順に従ってPSIIのX線結晶構造解析に多波長異常分散法の手法を適用し、Mn4Caクラスターの4個のMn原子の価数を実測する。(1) 高分解能で同型性の高い結晶を多数準備して、少ないX線照射量での回折実験を可能にし、Mn原子のX線還元を無視できる程度に抑える。(2) 同様に多数のPSII結晶を試料として、少ないX線照射量でMn-K吸収端スペクトルを測定し、回折実験を行うためのX線波長を決定する。(3) 設定した吸収端内の3波長と吸収端前後の2波長で回折強度を測定する(その際、吸収端より離れた1.80オングストロームでの回折強度測定も合わせて行い、各データを規格化するために利用する)。(4) 合計10種類の回折強度データに対して独立に構造解析を行う。(5) 得られた構造から計算される位相を用いて異常分散差の電子密度図を求め、各Mn原子に対するピーク高さから、それぞれの価数を決定する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究の初年度(2017年度)に我々は「研究実績の概要」に記述した(1)から(4)までの予定に従って必要とされるX線回折強度測定を行った。(1)では5回の回折実験(SPring-8)のために、各回50個程度のPSII結晶を準備した。(2)各実験のたびにPSII結晶からMn-K吸収端を測定して波長校正を行うとともに、吸収端内の3波長と吸収端前後の2波長の5つの測定波長を決定した。(3) 0.015 MGyのX線照射量で(2)に記した5波長で回折強度測定を行った。また、各実験のたびに吸収端から大きく離れた波長での回折強度測定(0.045 MGy)を合わせて行った。我々の先行研究から、0.1 MGyを下回るとPSIIのMn原子に対するX線還元は無視できるほど小さいことが既に明らかにされている。(4) 得られた10種類の回折強度データに基づいて構造解析を独立に進め、初年度の内に8つの解析を完了させた。本研究の二年目に当たる本年度は、(4)の残りの2種類の回折強度データについても構造解析を独立に進め、すべての解析を完了させた。続いて(5)の異常分散差の電子密度図を計算し、各Mn原子に対するピーク高さから、それぞれの価数を決定した。その結果、我々が使用しているPSII結晶の非対称単位はパッキング環境の異なる2つのモノマーで構成されているが、驚いたことに、それぞれのMn4CaクラスターはKokサイクルの異なるS状態(S1状態とS0状態)にあることが判明した。

今後の研究の推進方策

上述したように、本年度の研究から、PSIIのMn4Caクラスターが酸素発生反応の過程でたどる5つのS状態のうち、S1状態とS0状態について、それぞれの混合原子価状態が明らかとなった。これまでS1状態の価数分布には主に2つの考え方(高酸化あるいは低酸化パラダイム)があり激しい議論が戦わされてきたが、本研究により高酸化パラダイムに従っていることが確定した。またS0状態についても従来からの定説とは異なる価数分布が見出された。Mn4CaクラスターのS状態の構造とその価数分布はPSIIの水分解・酸素発生触媒としての機能に直結するものであるため、今後は今回得られた結果を十分に吟味した上で、Mn4Caクラスターの酸素発生反応の機構について議論する。

  • 研究成果

    (13件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (12件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Theoretical Elucidation of Geometrical Structures of the CaMn4O5 Cluster in Oxygen Evolving Complex of Photosystem II Scope and Applicability of Estimation Formulae of Structural Deformations via the Mixed-Valence and Jahn?Teller Effects2019

    • 著者名/発表者名
      Shoji Mitsuo、Isobe Hiroshi、Yamanaka Shusuke、Umena Yasufumi、Kawakami Keisuke、Kamiya Nobuo、Yamaguchi Kizashi
    • 雑誌名

      Adv. Q. Chem.

      巻: 78 ページ: 307~451

    • DOI

      https://doi.org/10.1016/bs.aiq.2018.05.003

    • 査読あり
  • [学会発表] 光合成で働く光化学系II・酸素発生クラスターの構造とMn原子の価数2019

    • 著者名/発表者名
      神谷信夫
    • 学会等名
      触媒学会
    • 招待講演
  • [学会発表] 藻類由来光合成超複合体における光エネルギー移動機構の解明に向けて2018

    • 著者名/発表者名
      川上恵典、廣田悠真、田原愁平、塩見潤子、眞岡孝至、瀧尾進、宮田真人、神谷信夫、小澄大輔
    • 学会等名
      カロテノイド研究談話会
  • [学会発表] 多孔質ガラス板内部における光化学系Iから水素発生助触媒である白金ナノ粒子への光誘起電子移動反応2018

    • 著者名/発表者名
      平野誠人、野地智康、川上恵典、神哲郎、近藤政晴、大岡宏造、神谷信夫
    • 学会等名
      生物物理学会
  • [学会発表] 膜蛋白質をナノ繊維内部に固定化した不織布の作製と評価2018

    • 著者名/発表者名
      嶋本太郎、野地智康、川上惠典、出羽毅久、神谷信夫、伊藤繁、水野稔久
    • 学会等名
      高分子学会討論会
  • [学会発表] ピコ秒時間分解蛍光分光を用いた光合成超複合体のエネルギー伝達過程の解明2018

    • 著者名/発表者名
      廣田悠真、藤本将吾、川上恵典、神谷信夫、小澄大輔
    • 学会等名
      分子科学討論会
  • [学会発表] フィコビリソーム・光化学系II超複合体における光捕集及びエネルギー散逸過程の解明2018

    • 著者名/発表者名
      廣田悠真、藤本将吾、川上恵典、神谷信夫、小澄大輔
    • 学会等名
      光化学討論会
  • [学会発表] シアノバクテリア由来PSIにおける励起状態ダイナミクスの励起エネルギー依存性2018

    • 著者名/発表者名
      芳野修平、川上恵典、神谷信夫、小澄大輔
    • 学会等名
      光合成セミナー
  • [学会発表] シアノバクテリア及び紅藻類由来チラコイド膜における分光学特性の比較2018

    • 著者名/発表者名
      廣田悠真、川上恵典、神谷信夫、瀧尾進、小澄大輔
    • 学会等名
      光合成セミナー
  • [学会発表] シアノバクテリア光合成におけるたんぱく質間相互作用の解明を目指した生化学及び分光学的アプローチ2018

    • 著者名/発表者名
      廣田悠真、藤本将吾、川上恵典、神谷信夫、小澄大輔
    • 学会等名
      光合成セミナー
  • [学会発表] 化学反応性膜蛋白質可溶化試薬を用いた膜蛋白質の可溶化とその後のゲル化による膜蛋白質内包ゲルファイバーの作製と評価2018

    • 著者名/発表者名
      嶋本太郎,谷口明希,野地智康,川上恵典,出羽毅久,神谷信夫,伊藤繁,水野稔久
    • 学会等名
      高分子学会
  • [学会発表] cyt c6/光化学系I/白金ナノ粒子複合体による光誘起水素発生2018

    • 著者名/発表者名
      平野誠人, 野地智康, 川上恵典, 神哲郎, 近藤政晴, 大岡宏造, 神谷信夫
    • 学会等名
      ナノ学会
  • [学会発表] 光化学系IIとガラスナノ空間を利用した高効率キノン光還元系の構築2018

    • 著者名/発表者名
      野地智康,池田有佑,川上恵典,神哲郎,神谷信夫
    • 学会等名
      ナノ学会

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公開日: 2019-12-27  

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