研究実績の概要 |
複合体I1,III2,IV1からなる超複合体をその機能を保持したまま精製する方法を確立すると共に、ATP合成を行う複合体Ⅴを非常に安定に精製する方法をこれまでに確立してきた。これら複合体による連携したATP合成機構解明には、超複合体中での各複合体の相互作用、複合体Vのプロトン流入に伴うATP合成機構を原子レベルで理解する必要がある。本研究では、①複合体Ⅰ1,III2,IV1からなる超複合体の構造と、②複合体Vの全体構造を原子レベルで解明すること、そして、③これら複合体による連携したATP合成の仕組みを明らかにすることを目指している。 超複合体については、2015年に両親媒性高分子Amphipolにより安定化された超複合体標品の調製法を確立し、その標品を用いて分光学的な解析を試みてきている。Amphipolにより安定化された超複合体標品と各々の精製標品の混合物(MIX)中の複合体Ⅳのヘムのラマンスペクトルを測定し構造変化の有無を、還元型、CO結合型について検討した。大きな構造変化はなく超複合体中での複合体Ⅳの反応性に大きな変化がないことがわかった(論文作成中)。結晶化はAmphipolにより安定化された標品では困難であることがわかったので、それぞれの精製標品を混合し、会合体の調製を試みている。超複合体を持たない生物の適応を見出したことから(BBA, 2017 )、超複合体の存在意義について構造からだけでなく議論できる可能性が出てきた。 効率の良い各複合体の精製法についての論文をまとめ(投稿中2018)、得られた複合体Ⅴから、全体の結晶化だけでなくプロトンの流入を行うFo部分の構造解明を目指し、膜中部分のsub-complexの調製法の確立を行っている。またこの膜中部分の結晶化には脂質メソフェーズ法が最適であると考え、脂質メソフェーズ法が行うことができる環境を整えた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超複合体 ●Amphipolにより安定化された超複合体標品と各々の精製標品の混合物(MIX)を調製し、超複合体中及びMIX中の複合体Ⅳのヘムのラマンスペクトルを測定した。構造変化の有無を、還元型、CO結合型について検討した所、大きな構造変化はなかったことから超複合体中での複合体Ⅳの反応性は大きく変化しないことがわかった。●Amphipolで安定化された超複合体標品を脂質環境に移し、脂質を用いた結晶化条件の検討を行ったが、膜への移行に伴い各々の複合体に解離することがわかった。また、ジギトニンで調製した超複合体も各複合体へと、常にほぼ一定の割合へと解離していく現象が認めた。この比はミトコンドリア膜中での存在比と近似していた。これは、遊離の複合体と超複合体が、膜中で平衡関係にある可能性を示している。超複合体を持たない生物の適応も発見したことから(BBA. (2017) Nov 27.)、ミトコンドリア膜中での超複合体の存在意義を議論できる可能性がある。●チトクロムc添加が、超複合体の安定化に大きく影響した。また一方で、チトクロムcの複合体Ⅳに対する第二の結合サイトがミトコンドリア膜に近い位置にあることを発見した。これがチトクロムcを介した複合体Ⅲ間での効率の良い電子伝達につながっている可能性が出てきた。複合体ⅢとⅣのチトクロムcとの共結晶化を行い、高分解能構造解明を目指す。 複合体Ⅴ ●ミトコンドリア膜内の各複合体(I,III,V)は界面活性剤とミトコンドリア重量の比を保つことにより選択的に可溶化され、再現性良く高効率で精製されることを論文としてまとめた(2018投稿中)。●プロトンの流入を行うFo部分の構造解明を目指し、膜中部分のsub-complexの調製法の確立を行った。●この膜中部分の結晶化には脂質メソフェーズ法が最適と考え、脂質メソフェーズ法を行う環境を整えた。
|