研究課題/領域番号 |
17H03646
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
伊藤 恭子 (新澤恭子) 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 特任准教授 (70206316)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Super complex / ATP synthase / mitochondria / respiratory chain |
研究実績の概要 |
複合体I1,III2,IV1からなる超複合体構造が、単粒子構造解析によりヨーロッパや中国から報告された。各複合体の位置関係情報は得られたが、それぞれの複合体間での相互作用や、超複合体形成の意義については解明されていない。これまでに行ってきたミトコンドリア膜中の構造と機能を保持したまま呼吸鎖各複合体を精製する方法については、報告した(Protein Expr Purif. 2018)。 末端酸化酵素である複合体Ⅳの構造はこれまですべてダイマーを形成した酵素で行ってきたが、ミトコンドリア膜中でも、超複合体中でもモノマーとして存在した。Amphipol を用いダイマーとモノマーの活性比較を初めて可能とし実験を行うと、モノマーの方が高い活性を示した。これは、機能単位はモノマーである事を示している。複合体Ⅳを安定化する界面活性剤の種類を検討することによりモノマー酵素のX線結晶構造解明に成功し、このモノマー構造から、カルジオリピンが超複合体中での複合体I及び複合体Ⅲとの相互作用に重要な役割を果たしていることを発見した(論文投稿中)。超複合体中の複合体Ⅳが超複合体形成によりどのように影響を受けているかについては、ラマン分光法による解析も進めている。還元状態だけでなく、酸素の疑似物質としてのCO結合型等の検討を詳細に進めるとわずかな差を検出するに至っている。この知見からも更に超複合体の存在意義を考察する。複合体ⅢとⅣの間の電子伝達を担うチトクロムcの結合した共結晶化から、効率の良い電子伝達を可能とする第2のチトクロムc結合部位を発見した。構造解明を更に進める。 複合体Ⅴに関しては、プロトンの流入を行うFo部分の構造解明を目指し、膜中部分のsub-complexの調製法の確立を行っている。またこの膜中部分の結晶化には脂質メソフェーズ法が最適であると考え、脂質メソフェーズ法による結晶化を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超複合体 ◎Amphipolにより安定化された超複合体標品と各々の精製標品の混合物を調製し、超複合体中及びMIX中の複合体Ⅳのヘムのラマンスペクトルを測定し、わずかな差を発見するに至った。この再現性を検討するとともに論文作成を開始した。◎複合体Ⅳのモノマーとダイマー酵素の活性比較を、Amphipolを用いることにより可能とし、ミトコンドリア中での機能単位はモノマーである事を明らかにした。また、界面活性剤の検討を行ってモノマー構造を決定した。ダイマー構造には酵素間に精製で用いたコール酸が結合しプロトン輸送経路を阻害していることがわかった。ダイマーは活性が低かったことから、ミトコンドリア膜中ではATPが結合し、待機型として存在するのではないかと考えられた。これに関しては論文投稿中である。◎超複合体を持たない生物の適応も発見したことから(BBA. (2017) Nov 27.)、ミトコンドリア膜中での超複合体の存在意義を議論できる可能性がある。◎チトクロムc添加が、超複合体の安定化に大きく影響した。また一方で、チトクロムcの複合体Ⅳに対する第二の結合サイトがミトコンドリア膜に近い位置にあることを発見し共結晶化をおこなった。この構造から複合体ⅣとⅢの間での効率のよい、電子伝達を考察する。 複合体Ⅴ ◎ミトコンドリア膜内の各複合体(I,III,V)の再現性良く高効率で精製する方法は論文としてまとめた(Protein Expr Purif. 2018)。〇本精製標品を膜へ再構成し、複合体ⅤがCa2+に依存したチャネルとして働くことがイタリアのグループとの共同研究で示され、論文投稿を行った。◎プロトンの流入を行うFo部分の構造解明を目指し、膜中部分のsub-complexの調製法の確立を行った。◎この膜中部分の結晶化には脂質メソフェーズ法が最適と考え、脂質メソフェーズ法を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
現在投稿にまで至っている、複合体Ⅳのモノマー構造から、超複合体中でのカルジオリピンの意義を明らかにした論文と、複合体Ⅴがチャネルとしての働きも持つという事を明らかにした論文が受理されるように努める。また、作成中のラマン分光法による超複合体中での複合体Ⅳの存在様式を解明する論文を投稿すると共に、ほぼ構造解明までに至っているチトクロムcの複合体Ⅳに対する第2の結合部位に関する知見から複合体Ⅲと複合体Ⅳの間の効率の良い電子伝達を考察する。そしてこの論文を早急にまとめる。これらは、最終年度であることから9月末までに完了するように努力する。 超複合体の単粒子構造が、ヨーロッパや中国のグループから報告され、各複合体の位置関係については知見が深められた。しかし、それぞれの複合体間での相互作用や、超複合体形成の意義については明らかにされていない。複合体Ⅲと複合体Ⅳとチトクロムcとの3者複合体の結晶化を進める。カルジオリピンが複合体形成に重要な働きをしていることが、複合体Ⅳのモノマーの高分解能X線結晶構造解析からわかったので、酵素への脂質添加、または脂質メソフェーズ法の適応を行い、巨大な3者複合体の構造解明に挑む。 また、昨年度、ミトコンドリアと逆反応ではある水の分解反応を行っているチラコイド膜中でも、光合成電子伝達複合体が更に大きな会合体である超複合体を形成していることを発見した。これの単粒子構造解析はすでに開始した。この知見もミトコンドリア呼吸鎖複合体の存在意義について知見を与えてくれると考えるので進める。 複合体Ⅴについては、膜内部分の高分解能構造解明を目指した脂質メソフェーズ法による結晶化を更に進め、高分解能構造解析を目指し、プロトン流入がどのように回転と結びつくかを考察する。
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