研究課題/領域番号 |
17H03648
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
横山 謙 京都産業大学, 総合生命科学部, 教授 (70271377)
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研究分担者 |
光岡 薫 大阪大学, 超高圧電子顕微鏡センター, 教授 (60301230)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ATP 合成酵素 / V-ATPase / bioenergetics / cryoEM |
研究実績の概要 |
V-ATPase は、真核生物の酸性小胞(リソゾーム、エンドソームなど)に存在するATP駆動性のプロトンポンプであり、小胞内の酸性化を通して、タンパク質の品質管理や物質代謝を担っている。ATP合成酵素FoF1 と同様の回転触媒機構で ATPのエネルギーを回転力に変えてプロトンを輸送する。我々は、V-ATPase の機能を明らかにするために、全体構造の構造決定を試みてきた。結晶構造解析による全体構造の決定はいまだ達成されていないが、回転運動に由来する構造多形により分解能が上がらないことが考えられる。そこで構造多形を持つタンパク質の構造解析にも対応できるクライオ電顕による単粒子解析を試みた。試料調製、クライオグリッドの調製条件を検討した結果、比較的良好なクライオ電子顕微鏡画像を撮影することができた。ここから画像解析ソフトRELIONにより、単粒子画像を抽出し、2次元クラス分けによる画像選別を経て、3次元クラス分けを行った。クラス数を12以上にした結果、回転状態に対応した3つの構造が得られた。精密化を進めることで部分的にはアミノ酸側鎖をおける分解能の構造を得た。この構造を解析することにより、プロトンの透過経路や回転に伴う外周部分の動きを明らかにすることができた。この成果は、2018 の Nature Communications に掲載された。さらに分解能を上げるために粒子数を増やしてクラス分けしたところ、もっとも数の多い単粒子からなるクラスの構造から、サブクラスに相当する構造を得ることができた。この構造はやや軸が傾いていおり、回転中間体に相当するものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度も、引き続き単粒子解析によるVoV1 の構造解析を行い、分解の改善を目指した。分解能を向上させるためには、S/N比の良い電子顕微鏡画像を多く撮影する必要がある。そのための条件検討を前年度に引き続き行った。LMNG で可溶化した VoV1 の画像をさらに撮影し、100万程度の単粒子画像を抽出し、解析を行った。特に一番分解能の良いクラスに注目し、Focused Classification など解析法を工夫することで、軸がやや傾いたサブクラスを得ることができた。ただ、クラス分けをすることで単粒子数が減り分解能は以前5A 程度で、原子分解能に至っていない。平行して可溶化条件の異なる試料の撮影も行った。ナノディスクは、膜タンパク質の疎水性部分に円盤状の脂質領域を作り出し、膜タンパク質を水溶液中に分散させる方法である。界面活性剤がないので、ミセルによるS/N 比の低下や、表面張力の低下による氷厚調整の難しさを回避することができる。ナノディスクへの VoV1 の組み込み条件を検討した結果、単分散性の良い試料を得ることができた。この試料を使ってクライオグリッドを作製し、観察したが、乖離したと思われる V1 の単粒子が沢山観察され、VoV1 の歩留まりが悪かった。調製直後の VoV1 は、ゲル濾過で検定しても単一ピークを示すことから、V1部分の乖離は、クライオグリッド作製時に起きていると考えられる。歩留まりが悪いながら、6-7 A程度の分解能の構造が得られている。Voの単粒子解析にも着手し、比較的良好な電子顕微鏡画像を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
現在、VoV1 については、LMNG で可溶化したもの、ナノディスクに組み入れたもの、GDNで可溶化したもの、についてクライオグリッドを作製し、クライオ電顕画像を撮影し、単粒子解析を進めている。それぞれ解析を進めたところ、現状では LMNG が一番分解能が上がっている。しかし、粒子数と分解能の関係を示すR-H plot で解析すると、100万粒子以上つかっても4Aを切る程度の分解能の構造しか得られないことが予想されている。この分解能では、アミノ酸側鎖をすべておいて原子分解能のモデルを構築するのは難しい。ナノディスクを使用した場合の問題点として V1部分の乖離がある。表面張力による引張力で乖離が起こることが考えられる。そこで、クライオグリッドの作製条件を検討する。具体的には、ブロットに使うろ紙の種類を変えて水の吸い取り時間を細かく設定する、片面からの吸い取りができる装置を使う、等を検討する。また、脂質ディスクを作るタンパク質の長さを変えて、直径の大きなナノディスクに組み入れることで乖離の軽減を狙う。LMNG, GDNに関しては、支持膜にアモルファスカーボンを使っているが、厚みがあり画像の S/N比を下げる原因の一つになっている。そこで単相グラフェンを支持膜に使うことで、S/N比のよい画像を取得する。グリッドの素材を金にすることで電子の照射時のグリッドの歪みによる分子の動きを軽減できる。グリッドの素材を変えることも検討する。Vo部分の分解能を上げるために、Vo部分だけを取り出して単粒子解析することも行う。予備実験では、良好な電子顕微鏡画像が得られることがわかった。Voだけにすると、V1とVoの分子内の動きによる分解能の低下を抑えられることが期待できる。
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