研究課題
生体膜の脂質二重層は、その内葉と外葉において脂質組成の非対称性を有している。細胞膜においてホスファチジルセリンの細胞外への暴露は重大な事象であり、従来アポトーシスや血小板凝集など非常時にのみ起こるものと考えられてきた。本研究では、このような死にゆく細胞ではなく、正常な細胞におけるホスファチジルセリンのダイナミクスの制御機構およびその生理機能を明らかにすることを目的とする。前年度において、P4-ATPaseのATP11C-aアイソフォームがCa2+シグナルによってPKCが活性化されるとエンドサイトーシスされることで、細胞膜のPS-フリップ活性のダウンレギュレーションメカニズムを明らかにした。一方、C末端スプライスバリアントであるATP11C-bアイソフォームはPKC活性化でダウンレギュレーションされないことおよび極性局在を示すことを明らかにした。また、ATP11C-cアイソフォームの存在も明らかになった。このアイソフォームは特異的に脳に発現していることが分かった。ATP11C-bアイソフォームの様々なアミノ酸変異体の解析の結果、その極性局在に必須なC末端のアミノ酸を同定した。さらに酵母2-hybridスクリーニングにより、このC末端に特異的に結合するタンパク質としてエズリンを同定した。特に、活性化型エズリンがATP11C-bに結合することも分かった。また、エズリンとの結合には本研究で同定したATP11C-bの極性局在に必須なアミノ酸残基が必要であることも明らかにした。さらに、エズリンの活性化型変異体がATP11C-bと同様の極性局在を示すことを明らかにした。したがって、ATP11C-bの極性局在には活性化型エズリンの結合が重要な意味を持つ可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画通り研究が進み、ATP11Cアイソフォームの極性局在に関する研究成果を現在投稿中である。C末端スプライスバリアントであるATP11C-bアイソフォームはPKC活性化でダウンレギュレーションされないことおよび極性局在を示すことを見出した。そこで、本年度はATP11C-bアイソフォームの様々なアミノ酸変異体の解析の結果、この極性局在に必須なC末端の3つのアミノ酸残基を同定した。また、ATP11C-cアイソフォームの存在も明らかなり、このアイソフォームは脳に特異的に発現していることが分かった。ATP11C- aやATP11C-bはユビキタスに発現した。ATP11CのアイソフォームはCaシグナル、極性局在、さらには組織特異的な局在によってホスファチジルセリンの非対称性の調節を行っていることが示唆された。
ATP11Cとエズリンの極性局在のメカニズムを明らかにするために、ATP11Cのノックアウト細胞におけるエズリンの局在およびエズリンのノックダウン細胞におけるATP11Cの局在を調べていく。エズリンも細胞運動に関与することも示唆されていることから、ATP11Cのノックアウト細胞における細胞運動への影響を調べていく。さらにATP11Cノックアウト細胞にATP11C-aあるいはATP11C-bのみを発現する細胞およびエズリンと結合できないATP11C-bの変異体を発現する細胞を作製し、それぞれのアイソフォームの細胞運動における関与および細胞運動における極性局在やエズリンとの結合の生理的意味を明らかにしていく。また、ATP11Cの極性局在における局所で起きるPS露出および回復を可視化し、そのメカニズムの解明を目指す。神経細胞の突起の退縮および軸索の再生に一時的PS露出が必要であることから、ATP11CがこのPS露出に関与するかどうかを調べていく。
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