昨年と同様に分子モーターキネシンとダイニンに輸送されるミトコンドリアの運動を神経細胞内で蛍光顕微鏡を用いて観察した。青色で励起が必要な光スイッチ(キネシンモーターとミトコンドリアを繋ぐスイッチ)と分けるため、ミトコンドリアは赤い蛍光でラベルした。青色で励起するとキネシンがミトコンドリアに付着し、ミトコンドリアの速度が増すことが予想されている。ゆらぎを用いた非侵襲力測定法によるキネシン数の検出から、この現象を調べる予定であった。昨年に続き、観察を継続したものの、当初予定していた光操作によるミトコンドリアの速度増加が観察できなかった。そもそも細胞内でミトコンドリアがstationaryな状態にあり、輸送が活発でないため、期待していた現象が見えなかった可能性がある。
研究がうまくいかなかった時の対処として、光スイッチでなく薬剤によってミトコンドリアに付着する分子モーターの分子数増減を制御する計画を立てていたので、本年度はこれを行った。stationaryな状態になく、輸送が活発なシナプス小胞前駆体を用いてダイニンの阻害剤シリオブレビンを添加し、ゆらぎを用いた非侵襲力測定法を応用することで濃度依存的にミトコンドリアを輸送するダイニン数が減少することを確認した(昨年調べたメラニン色素輸送と類似した結果である)。なお、シリオブレビンによってキネシン数の変化は無かった。光操作ではないが、人工的な手法で分子モーター数を削減し、非侵襲力測定法の検証を行うことができた。ミトコンドリア輸送に対しては、薬剤としてbuthionine sulfoximine(BSO)を添加して分子モーター数の減少を確認した。
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