研究課題/領域番号 |
17H03661
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
富重 道雄 青山学院大学, 理工学部, 教授 (50361530)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分子モーター / 生物物理 / 1分子計測(SMD) / ナノマシン / 細胞内輸送 |
研究実績の概要 |
キネシンが二つの頭部を交互に動かして二足歩行運動するためには、前頭部よりも先に後ろ頭部が微小管から解離する必要がある。それを説明するためのモデルとして、前頭部が後ろに引っ張られることによって前頭部の解離が抑えられているというモデルが提案されているが、直接的な証拠はまだ得られていない。今年度はこのモデルを検証するために、後ろ頭部の解離を遅くしたE236A変異体と野生型のヘテロダイマーを用いることで、前頭部の微小管からの解離速度を計測することにした。具体的には、ヘテロダイマーの野生型頭部を金コロイド粒子で標識し、その結合解離運動を全反射照明型暗視野顕微鏡を用いて1 nmの空間精度と55マイクロ秒の時間分解能で観察した。飽和ATP存在下では、前頭部は160 msに一度微小管から解離し、その頻度はATP濃度を下げると低下した。この前頭部が微小管から解離までの時間は、我々が過去に測定した後ろ頭部が微小管から解離するまでの平均時間10 msよりも大幅に遅く、これは前頭部ではATP加水分解が16倍押さえられていることを示すものである。さらに2つの頭部をつなぐネックリンカーにかかる張力の影響を調べるために、人工的にネックリンカーを伸ばした変異体を用いて同様に観察を行ったところ、解離までの平均時間はほとんど変化せず、ATPの親和性を表すミカエリス定数Kmが低下した。これらの結果は、ネックリンカーにかかる張力の大きさではなく、前頭部のネックリンカーの向き(進行方向に対して後ろ向き)がATP加水分解の抑制に関わっており、後ろ頭部ではネックリンカーが前を向くため、ATP加水分解が促進されるというモデルを裏付けるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で用いたE236A変異体頭部と野生型頭部からなるヘテロダイマーキネシンはほとんど運動を示さないため、野生型頭部が結合解離を繰り返す活性を有する試料を得るのに時間を要したが、精製方法を確立した後は、安定して測定データが得られるようになり、順調に研究が進んだ。研究の途中で、微小管から解離した野生型頭部は激しく揺らぐのではなく、一時的にブラウン運動が拘束された初期状態をとるという予想外の結果が得られた。研究計画にはなかったが、その仕組みを明らかにするための実験も行い、前頭部と後ろ頭部の解離の違いに関する新しい知見を得るに至った。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までは無負荷条件下で運動中のキネシン頭部につけた金微粒子を高時間分解能で観察することによって、ステップの中間状態の遷移速度や構造遷移を明らかにしてきたが、来年度はこの方法を負荷存在下で運動中のキネシンに応用することにより、キネシンのステップ中の中間状態の遷移速度の負荷依存性を明らかにし、運動の負荷依存性の仕組みに迫る。具体的には、DNAオリガミでできたナノスプリングを用いてキネシンに負荷をかけた状態で、全反射型暗視野顕微鏡を用いてキネシン頭部の運動を観察する。また、金微粒子に二分子程度のキネシンを結合させ、その運動を高速一分子観察することで、多分子が強調して荷物を運搬する際の協調性の仕組みを明らかにする。
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