昨年度までは無負荷条件下でキネシン頭部の運動を高時間分解能で観察してきたが、本年度はこの方法を負荷存在下で運動中のキネシンに応用することにより、キネシンの運動の負荷依存性の仕組みを明らかにすることを目指した。キネシンに負荷をかけ、各時刻での負荷を見積もるために、バネのように伸び縮みするDNAオリガミ(DNAナノスプリング)を用いた。DNAナノスプリングの片端に金コロイド標識した野生型キネシンを結合させ、もう一方の端に微小管からの解離が遅い変異体キネシンを結合させた。全反射照明型暗視野顕微鏡を用いて観察したところ、野生型キネシンが運動した後、速度が徐々に低下していく様子が観察された。しかし、その後微小管から解離して最初の位置に戻る様子はあまり観られず、変異体キネシンが解離してDNAナノスプリングが同じ方向に動き続ける様子が見られた。変異体キネシンの種類を変えたり、溶液条件を変えて実験を行ったが、微小管に長時間固定させることができなかった。これは解離の遅い変異体キネシンでも前方に負荷を受けることで解離が加速されたためと考えられる。そこでキネシンの運動の負荷依存性を調べるために、キネシンの運動速度の違いによってトレースを5つの領域に分割し、それぞれの速度領域でのステップ運動の様子を比較した。負荷が上昇し運動速度が低下すると、両足結合状態の持続時間は変化しなかったが、片足結合状態の持続時間が上昇した。また負荷の上昇により、浮いた頭部が後ろの結合部位に再結合する頻度や前方の頭部が先に解離する頻度が上昇した。これらの結果は、運動中のキネシンに負荷がかかると、片足結合状態の浮いた頭部のブラウン運動が後方に制限され、それによって前方の結合部位へアクセスする頻度が低下し、運動速度が低下することを示唆するものである。
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