研究課題/領域番号 |
17H03664
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
加藤 博章 京都大学, 薬学研究科, 教授 (90204487)
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研究分担者 |
中津 亨 京都大学, 薬学研究科, 准教授 (50293949)
山口 知宏 京都大学, 薬学研究科, 助教 (80346791)
宮ノ入 洋平 大阪大学, たんぱく質研究所, 准教授 (80547521)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 構造生物学 / トランスポーター / ATP / 膜タンパク質 / X線 / 多剤耐性 |
研究実績の概要 |
マグネシウムイオンとATPアナログ複合体をABCトランスポーターとしては前例のない高分解能(2.0オングストローム)で構造決定した。その結果、ヌクレオチド結合ドメイン(NBD)の二量体を安定化する新たな機能モチーフを発見した。また、基質アナログ複合体とCmABCB1複合体を初めて結晶化することができた。ついで、ポンプ機能に関わるアミノ酸残基として、Phe138、Phe384、Tyr358、Gln398、Pro400、Tyr233、Lys237、Ala240の改変がポンプ機能を著しく低下させることを確認した。これらは、膜貫通ヘリックスのTM3とTM6に局在することから、この2本のヘリックスが基質輸送メカニズムに関わることが機能解析によって確かめられた。これまでに確立したPichia pastorisの培養方法では、15N標識の標識効率が安定せず、NMR測定に必要な試料を安定に供給することが困難であることが判明した。そこで、原因を探るために、質量分析(MALDI-TOF)を用いて試料タンパク質の標識効率を計測する実験系を確立した。これにより、精製したCmABCB1を用いて15Nラベル体と14Nラベル体の分子量の計測が可能になった。これまでに立体構造を決定した内向型および外向型CmABCB1の結晶構造を最初と最後の構造として、それらをつなぐ動的なコンフォーメーションの構造を分子動力学計算により求めた。その結果、ATPおよびMgイオンの結合によってNBDが二量体化を起こし、その構造変化がトランスメンブレンドメインに伝わり基質排出ゲートが開く様子をシミュレーションすることができた。ローダミン誘導体RT-17を合成したところ、ATP加水分解酵素活性のKm値および阻害定数Ki値がいずれもローダミンと比較して小さく、CmABCB1との特異性が向上した化合物であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、方法論の異なる5つの研究手法を協奏的に用いてABCトランスポーターメカニズムに迫ろうとする点が革新的であり、また、前例のない成果に結び付くものと考えられる。それら5つのうち、基質及び阻害剤との複合体のX線結晶解析、変異体の機能解析と大量試料の調製、MD計算、有機合成は当初の計画通りか、それを超える成果が得られていると言える。すなわち、ヌクレオチドとマグネシウムイオンの結合した結晶構造では、ABCトランスポーターとして、前例のない高分解能での構造決定に成功し、外向型構造の安定化に寄与する新規モチーフ構造を発見した。さらに、従来は主鎖の構造変化のみが議論されてきた輸送メカニズムと立体構造変化において、主要な残基の側鎖の役割が明らかとなった。従来は部位特異的変異と機能における必要性が議論されていただけであったものが、それぞれのアミノ酸残基の具体的な役割が立体構造変化に基づいて解明されつつある。一方、NMR解析においては、当初は順調に進んでいたが、途中から試料調製の再現性に問題が生じ、15Nラベル化体を安定供給することが困難となった。そこで、その原因を定量的に探るため、15Nラベル体を定量する手法の開発を行い、巨大な膜タンパク質を直接MALDI-TOFによる質量分析によって計測できる実験系を確立した。この方法により、培養条件に問題があることが判明したことから、その問題解決を図れば、当初計画の実現に至る見込みがあることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
基質及び阻害剤との複合体のX線結晶解析、変異体の機能解析と大量試料の調製、MD計算、有機合成は当初の計画通り順調に進んでおり、そのペースで推進する。 一方、NMR解析においては、試料調製の再現性に問題が生じ、15Nラベル化体を安定供給することが困難となった。そこで、その原因を定量的に探るため、15Nラベル体を定量する手法の開発を行い、巨大な膜タンパク質を直接MALDI-TOFによる質量分析によって計測できる実験系を確立した。この方法により、培養条件に問題があることが判明した。すなわち、目的膜タンパク質の発現量を上昇させるために加えていた試薬が、アミノ酸を含むため、無機塩化合物である15Nラベル化塩化アンモニウムの取り込みを阻害している可能性が判明した。そこで、培養条件の探索を再検討し、有機化合物を排除した無機塩培地による大量発現の条件の確立を目指すことにした。その結果、無機塩培地でも、有機物培地と同様に生育することができるPichia pastoris株の育種に成功した。この結果は、アミノ酸混合物を排除した条件での15Nラベル化を実施可能であることを示しており、従来の有機物培地よりも有利な条件での15Nラベル化に道を開く結果となった。 さらに、NMRの実験結果を補完することを目的として、蛍光スペクトルを用いた立体構造変化の捕捉についても検討を加えることを計画する。これは、NMRにおいてトリプトファン残基の役割が明らかになりつつあることに対応しており、これまでの実績に基づいた現実的な方策であると言える。
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