研究課題
ダイニンは、ATP加水分解を利用して微小管上を滑り運動する巨大モータータンパク質複合体で、そのモーター活性は、細胞中心方向への物質輸送・細胞移動・細胞分裂など本質的な生命活動の駆動に必須である。しかし、これら多様な細胞内機能を発揮するための基盤となる「ダイニン複合体が微小管上を輸送運動するメカニズム」はいまだに謎に包まれており、その解明は生物物理学・細胞生物学分野の重要な研究課題のひとつである。本研究は、ダイニン複合体の機能面での解析を進めるとともに、構造面での研究を推進することで、その運動発生機構の全貌を原子レベルで明らかにすることを目指している。本年度の研究では、まず輸送機構理解への鍵の一つである「ダイニンの微小管上輸送運動」について、従来達成されたことのない高速・高精度での測定を行う系を確立し、細胞内条件に近い高濃度ATP 存在下でのダイニン分子の歩行運動一歩一歩を可視化することに成功した (Sci. Rep. 2020; 科学新聞20/2/14)。また、キネシン・ダイニン輸送系が機能する上で重要な「積荷アダプター」についても機能・構造研究を開始し、mRNA輸送アダプターの一つであるTDP-43について、mRNA結合に重要な役割を果たすタンパク質内領域を同定することに成功した (FEBS Lett. 2020)。さらに、本研究の最重要課題である「ダイニン複合体が微小管上を輸送運動するメカニズムの構造基盤解明」についても、ダイニン中核領域のクライオ電顕解析の諸検討を順調に進めることができた。その結果、現時点で~6Å分解能のクーロンポテンシャルマップを得ることに成功している。本成果は、従来報告されている空間分解能(8~10Å)を大幅に更新するものであり、本研究の最終目標である微小管-ダイニン複合体の高分解能構造解析へ向けた重要基盤になりえるものであると考えている。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究はほぼ予定通りに進行した。
今後の最重要課題は、ダイニン中核領域のクライオ電顕構造解析の空間分解能を向上させアミノ酸残基レベルの解析(3~4Å空間分解能)を可能にすることである。この目的を達するために、ダイニンタンパク質の高度精製条件・クライオグリッド作成条件・クライオ電子顕微鏡像撮影条件・画像解析条件のなどの諸検討を集中的に行う予定である。
すべて 2020 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Sci. Rep.
巻: 10 ページ: 1080
10.1038/s41598-020-58070-y
FEBS Lett.
巻: - ページ: -
10.1002/1873-3468.13800
生産と技術
巻: 70 ページ: 73-76
http://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/bio_web/lab_page/kon/