研究実績の概要 |
多細胞生物の組織や器官を構成する細胞集団において、異常な細胞を認識して排除することが、器官形成や恒常性維持に重要な役割を果たすと考えられているが、その分子機構や生理機能についてはいまだ不明な点が多い。我々はショウジョウバエ上皮をモデル系として用い、リガンドー受容体システムSas-PTP10Dが上皮組織に生じたがん原性の極性崩壊細胞を認識する上で重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた(Yamamoto#, Ohsawa# (# equal contribution) et al., Nature, 2017)。また一方で我々のグループは、神経系で反発作用を誘発するリガンドー受容体システムSlit-Roboが極性崩壊細胞の排除を促進する上で重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた(Vaughen & Igaki, Dev Cell, 2017)。そこで本研究では、Sas-PTP10DおよびSlit-Roboシステムに着目し、「細胞認識を起点としたSurveillanceシステム」が機能する組織・時期を探索した。その過程で、翅成虫原基(将来、翅のブレード領域を形成する幼虫期の組織)に導入された物理的損傷が修復する過程において、Sas-PTP10DおよびSlit-Roboシステムがいずれも重要な役割を果たしていることが分かった。興味深いことに、Slit-Roboシステムを遺伝学的に破綻させると、創傷治癒の間で生じた死細胞が組織から排除されずに成虫原基に留まる様子が観察された。さらに、Slit-Roboシステムの破綻により組織中に留まった死細胞が、分泌性の増殖因子Dpp(BMPホモログ)やWingless(Wg; Wntホモログ)を産生していることが分かった。これらの観察結果は、死細胞を速やかに組織から排除することが創傷治癒を行う上で重要な役割を果たしていることを示唆している。
|