研究課題
A)ペルオキシソーム膜形成の分子機構の解明ペルオキシソームC末アンカータンパク質であるペルオキシンPex26pは、AAAタンパク質ファミリーのPex1pとPex6p(AAAペルオキシン)をペルオキシソームへリクルートする役割を担い、膜透過輸送装置複合体の主な構成因子であるPex14pと相互作用する。米国コロンビア大学との共同研究により聴覚障害として報告された患者の病因遺伝子変異が, Pex26pのアミノ酸配列中51番PheからLeuへの点変異置換であり、この変異に起因したPex26pとPex14pとの結合能の低下,新たに翻訳されたマトリクスタンパク質の輸送効率が著しく低下することを見出した。単細胞紅藻を用いた研究から見出したペルオキシソームの分裂を担うGTPaseであるdynamin-like protein 1 (Dnm1)を含むリング構造の超分子ナノマシンperoxisome-dividing (POD) machineryを精製し、新規分裂因子DYNAMO1を同定した。DYNAMO1はATP-GTP変換酵素であり、DYNAMO1が生成するGTPをエネルギー源として,Dnm1が収縮力を発揮し膜をくびり切る分裂機構を明らかにした。また、細胞周期における総GTP量の調節因子として機能すると推察されるDYNAMO2の同定にも成功した。B)ペルオキシソーム形成障害の分子機構の解明ペルオキシソーム形成因子Pex14pのC末端領域を欠失したPex14ΔC/ΔCマウスを確立し、ペルオキシソーム欠損による小脳形成障害は、brain-derived neurotrophic factor (BDNF)およびTrkB-T1の増加に起因する下流のシグナル伝達系の不活性化が原因であることを発見した。すなわち、世界で初めての本症の小脳における病態発症機構の解明に成功した。
2: おおむね順調に進展している
A)ペルオキシソーム膜形成の分子機構の解明難聴の原因であるPex26pの点変異による機能障害の分子機構や新規オルガネラ分裂因子の発見・同定とその機能解明に成功している。加えて、N末やC末アンカー型ペルオキシソーム膜タンパク質を用いてペルオキシソーム膜タンパク質の新生鎖合成時やサイトゾル因子を介するペルオキシソーム膜への標的化に新たな制御機構の存在も見出しており、ペルオキシソーム膜タンパク質局在化の分子基盤の詳細解明が期待される。これら現在までの結果は、ペルオキシソーム膜タンパク質標的局在化およびペルオキシソームの膜形成と分裂の分子機構の解明に大きく貢献するものと期待される。B)ペルオキシソーム形成障害の分子機構の解明ペルオキシソーム欠損による小脳形成障害の発症機構を世界で初めて明らかにした。また、個体と同様にペルオキシソーム欠損によってBDNFのタンパク質レベルが増加する細胞実験系の確立にも成功している。これらの成果は、ペルオキシソーム欠損による小脳形成障害の分子機構の解明のみならず、脳内の他の領域の障害機構の解明にも大きく貢献するものと期待される。
A)ペルオキシソーム膜形成の分子機構の解明に関し、A-1) ペルオキシソーム膜タンパク質の膜挿入機構の解明:セミインタクト細胞やin vitroペルオキシソーム膜タンパク質輸送解析系において、N末端やC末端アンカー型膜タンパク質、複数回膜貫通ドメインを有するペルオキシソーム膜タンパク質などClassⅠ経路で輸送される膜タンパク質の膜挿入機構を明らかにする。とくに、N末アンカー型I型膜タンパク質の一つであり、エーテル型リン脂質プラスマローゲン生合成経路の第3段階触媒酵素であるDHRS7Bがペルオキシソームと小胞体に両局在化する機構とその生理的意義について解析する。次いで、A-2) ペルオキシソーム膜形成の分子機構の解明: サイトゾルにおいてPex19pと複合体を形成したペルオキシソーム膜タンパク質輸送中間体に含まれる因子を見出している。この因子がペルオキシソーム膜タンパク質輸送および品質管理に機能することを見出しつつあり、さらに解析を進める。B) ペルオキシソーム形成障害の分子機構の解明に関し、B-1)脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現異常の分子機構の解明:ペルオキシソーム欠損性グリア細胞における代謝異常により障害を受けるBdnf遺伝子転写調節因子を特定する。次いで、Pex14ΔC/ΔCマウスにおいて見出した小脳形態異常の原因であるBDNFおよびその受容体TrkBの発現異常の分子機構を免疫組織化学的解析や初代組織培養法等により解明する。次いで、B-2) ペルオキシソーム形成障害による中枢神経系の退行・脱髄の分子機序の解明:作成・確率済みのPEX2コンディショナルノックアウトマウスを用い、発生時期特異的な代謝障害をタモキシフェンにて誘導し、その後の中枢神経系の退行や脱髄が惹起される分子機構を明らかにする。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 8件、 招待講演 2件) 図書 (4件) 備考 (1件)
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