研究課題
神経シナプス間の情報伝達は、シナプス前部とシナプス後部の精密な協調によって調節される。シナプス間隙に隔てられた2つの領域が機能協調する機構として、種々のシナプス接着分子や分泌性シグナル分子が報告されているが、その全容は不明である。最近、超解像顕微鏡解析により、シナプス前部の神経伝達物質放出やシナプス後部の受容体集積に関わる蛋白質は、シナプス膜近傍で特殊なナノドメインを形成し、互いに対面整列していることが報告されはじめた(シナプス-ナノカラム説)。本研究では私共が独自に同定したパルミトイル化脂質修飾関連酵素群とてんかん関連分泌リガンド・受容体LGI1-ADAM22を起点として、1) シナプス-ナノドメインの形成機構、2) シナプス-ナノカラムの実体と制御機構、3) それらの破綻とシナプス疾患との関連性を解明する。平成29年度は、LGI1-ADAM22のX線構造解析の知見に基づき、LGI1-ADAM22がLGI1同士の相互作用を介して、ヘテロ4量体として存在することを見出した(東大、深井周也博士との共同研究)。また、LGI1とADAM22の相互作用に関わるアミノ酸残基および、LGI1同士の相互作用に関わるアミノ酸残基をin vitroの結合実験にて明らかにした。さらに、ヒト家族性側頭葉てんかん患者に見られる変異が、LGI1同士の相互作用に関わるアミノ酸残基であることを見出した。そして、この変異を有する変異モデルマウスが致死性てんかんを示すと共に、脳内においてLGI1-ADAM22からなるヘテロ4量体構造が破綻していることを見出した。これらの知見は、LGI1-ADAM22がシナプス間隙をつなぐ分子複合体であることを強く示唆すると言える。
1: 当初の計画以上に進展している
LGI1-ADAM22、リガンド-受容体の存在様式、結合様式の詳細を明らかにすることができた。そして、LGI1-ADAM22が当初予想していなかった様式(LGI1同士の相互作用を介したヘテロ4量体)で蛋白質複合体を形成し、シナプス間隙をつないでいる可能性を提案した。さらに、この4量体形成が破綻するとin vivoでてんかん発作が生じることを明らかにした。これらの知見は本研究の目的である「シナプス-ナノカラムの実体と制御機構を明らかにする」と「それらの破綻とシナプス疾患との関連性を解明する」に大きく貢献できるものと考えられる。
平成30年度は、パルミトイル化脂質修飾関連酵素群による「シナプス-ナノドメインの形成機構」により重点を置いて研究を推進する。具体的には、パルミトイル化酵素DHHC2と脱パルミトイル化酵素ABHD17の神経細胞における局在、特にPSDナノドメインとの関係を超解像および電子顕微鏡観察により明らかにする。DHHC2特異抗体は作成済みだが、新たにABHD17抗体を作成、評価する。次に、DHHC2とABHD17の活性制御機構を生化学的、細胞生物学的手法にて明らかにしていく。
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