研究課題
神経シナプス間の情報伝達(シナプス伝達)は、シナプス前部とシナプス後部の精密な協調によって制御される。シナプス間隙に隔てられた2つの領域が協調して機能する制御機構として、様々なシナプス接着分子や分泌タンパク質が報告されているが、その全容は不明である。近年、超解像顕微鏡解析により、シナプス前部の神経伝達物質放出やシナプス後部の受容体集積に関わるタンパク質は、シナプス膜近傍で特殊なナノドメインを形成し、互いに対面整列していることが報告されはじめた(シナプス-ナノカラム説)。本研究では私共が独自に同定したパルミトイル化脂質修飾関連酵素群とてんかん関連分泌リガンド・受容体LGI1-ADAM22を起点として、1、シナプス-ナノドメインの形成機構、および 2、シナプス-ナノカラムの実体と制御機構、を解明する。平成30年度は、シナプス後肥厚部(PSD)の主要な足場タンパク質PSD-95が構築するPSDナノドメインの形成制御機構について解析を進めた。最近、私共はPSDナノドメインの数やサイズがPSD-95のパルミトイル化-脱パルミトイル化局所サイクルによって規定されるモデルを提唱し、長らく未知であったPSD-95脱パルミトイル化酵素として、ABHD17酵素ファミリーを同定した。しかし、ABHD17の細胞内局在、相互作用分子、生理機能等については、全く不明である。そこで、私共は、ABHD17の脳内分布、細胞内分布を超解像イメージングや電子顕微鏡解析にて明らかにした。また、脳組織より特異的な相互作用分子を網羅的に精製し、その構成要素の詳細を明らかにした。また、LGI1-ADAM22に関する研究においては、自己免疫性辺縁系脳炎患者の血清から得たモノクロナール抗体の性状解析を開始した。
2: おおむね順調に進展している
最近同定したPSD-95脱パルミトイル化酵素ABHD17ファミリーの脳内発現領域、細胞内局在、相互作用分子、生理機能の一端を明らかにすることに成功した。ABHD17は脳内の広い領域に発現し、分子種特異的に発現量が調節されていた。また、ABHD17は神経細胞において、シナプス膜のみならず様々な小胞上に分布していた。ABHD17と相互作用する分子として、多くの基質タンパク質や小胞タンパク質を同定した。また、海馬培養神経細胞において、脱パルミトイル化活性を生細胞レベルで可視化することに成功した。
平成31年度は、引き続きパルミトイル化脂質修飾関連酵素群による「シナプス-ナノドメインの形成機構」により重点を置いて研究を推進する。具体的には、パルミトイル化酵素ZDHHC2と脱パルミトイル化酵素ABHD17の生理機能を明らかにする。また、ZDHHC2とABHD17の活性制御機構を生化学的、細胞生物学的手法にて明らかにしていく。一方、LGI1-ADAM22によるシナプス架橋(シナプス-ナノカラム)形成の生理的意義については、単離精製したLGI1自己抗体を分子ツールとして解析を進める。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件) 備考 (2件)
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